第4章 19 イラつく皇女
ヴァイオレット皇女は高貴な身分であるにも関わらず、アリオスがやって来た知らせを聞き、顔に笑みを浮かべて城のエントランスに向かって駆けていた。
(やっぱりアリオスは私の事が忘れられなくて会いに来てくれたのね?それは当然よ。だってあんなに貧しそうな服を好むような女性、男性なら誰でも敬遠したくなるに決まっているもの!)
「お待ち下さい!ヴァイオレット様!走るのはどうかおやめくださいっ!」
その後ろをリズが追い掛けるも、ヴァイオレットは走るのをやめない。
「アリオスッ!」
ようやくエントランスのあるホールへやってきたものの、そこにはもうすでにアリオスの姿は無かった。いるのはアリオスを迎えた数名のフットマンとメイド達であった。彼らは突然駆けつけてきたヴァイオレット皇女の姿に驚き、慌ててすぐに頭を下げてきた。
「これは皇女様、ご機嫌麗しゅう…」
1人のフットマンが言葉を掛けるのに聞く耳も持たずにヴァイオレットは言った。
「アリオスはっ!アリオスは何所っ?!」
辺りをキョロキョロ見渡しても何所にもアリオスの姿は無い。
「ねえっ!お前達、アリオスは一体何所へ行ったのよ!」
「え…?アリオス様ですか…?」
1人のメイドが首を傾げる。
「惚けるつもり?アリオスはここへ来たんでしょう?!」
メイドの態度にイラついたヴァイオレットが声を荒げる。
「落ち着いて下さい!ヴァイオレット様!」
リズがヴァイオレットをなだめる。すると少しだけ落ち着いたのかヴァイオレットは息を吐くと、再度フットマン達に尋ねた。
「ねえ、アリオスは何所へ行ったの?教えなさい」
フットマンやメイド達は少しの間、顔を見合わせていたがやがて1人のフットマンが口を開いた。
「アリオス様は…アイザック皇子の元へ向かいました」
「え…?お兄様の元へ‥?それでは彼は私ではなく、お兄様に会いに来たの…?」
ヴァイオレットは俯き、下唇を噛みしめると言った。
「お兄様の元へ行くわ」
「あ、おやめください!」
「誰も近づけないように言われているのです!」
フットマン達は慌ててヴァイオレットを引き留めようとした。
「うるさいわね!私はこの国の皇女なのよ!私に指図してよい人間はお父様とお兄様だけよ!」
ヴァイオレットの言葉にその場にいた全員が凍り付いた。
「フンッ!」
そんな彼らを冷たい目で一瞥するとヴァイオレットはアイザックの部屋へ1人で向かった―。
****
その頃、アリオスはアイザックの執務室のソファでアイザックと対面していた。
「…」
アリオスは紅茶を飲んでいるアイザックを無言で睨み付けていた。
カチャ・・・・
アイザックはティーカップをソーサーの上に置くと肩をすくめた。
「やれやれ…突然現れたかと思えば黙って睨み付けているばかりじゃ何を言いたいのか分からないじゃないか?」
「アイザック皇子、私に話す事はありませんか?」
アリオスは怒りを抑えてアイザックに質問する。
「話す事…?ああ、そうだ。アリオス、君の婚約者は無事に屋敷に帰れたかい?」
「!」
その言葉にアリオスはビクリとし‥次に怒気を含んだ声でアイザックに言う。
「何故…スカーレットにあのような真似を働いたのですか?」
しかし、アイザックはアリオスの質問に答えずに逆に尋ねて来た。
「それより、先に私の方から質問させてくれ。君の婚約者のスカーレットは何だか少し普通の女性とは違うように見えたのだけど…ずっとあんな風なのかい?」
「あんな風とは…?」
「極端に男性を恐れているように見えるよ。私と話していた時もずっと震えていたしね…。あんな風に女性に泣かれたのは生まれて初めてだったよ。今までの女性達は口では嫌がったりしていても最終的には私にその身を捧げていたからね」
「なっ…?!」
アリオスはアイザックの言葉に衝撃を受けた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます