第4章 18 退屈な皇女

 書類を前に仕事をしようと思っても、どうしてもスカーレットがされた仕打ちの事が気がかりでアリオスは仕事が手につかなかった。


(駄目だ…このままではどうしようもない。やはり王宮に行ってこよう)


アリオスはテーブルの上に置いてある真鍮で出来た呼び鈴をならした。


チリン

チリン

チリン


するとややあって、アリオスの部屋の扉がノックされた。


コンコン


「アリオス様、お呼びでしょうか?」


「ああ。王宮に行ってくる。馬車の準備をしておいてくれないか?」


立ち上がるアリオスにセオドアは戸惑い気味に声を掛けた。


「アリオス様…今から王宮へ行かれるのですか?」


「ああ」


「ですが…」


「頼む、急いでくれ」


しかしセオドアの言葉はアリオスによって塞がれた。


「かしこまりました。すぐに用意するよう伝えて参ります」


セオドアは頭を下げると退室した。それを見届けるとアリオスは机の上の書類を整理すると部屋を後にした。



 アリオスが準備をしてエントランスの扉を開けると、既にそこには1頭立ての馬車が用意され、御者が待機していた。


「お待ちしておりました、アリオス様」


「ああ。至急王宮まで頼む」


アリオスは馬車に乗りながら声を掛けた。


「かしこまりました」


そしてアリオスを乗せた馬車は王宮へ向けて出発した―。




****


 午後6時―


白とピンクを基調とした豪華な調度品の家具の置かれた広々とした部屋で

ヴァイオレットは夕食を待ちながらロマンス小説を読んでいたのだが…。


パタン


本を閉じるとテーブルの上に突っ伏し、そばにいた侍女に話しかけた。


「全く、今日は面白くなかったわ…」


「何がでしょうか?皇女様」


ヴァイオレットが読み散らかした本を片付けながら侍女のリズが尋ねる。


「だって折角スカーレット嬢を招いたのに、馬車の中で気分を悪くして気を失っていたんだもの。そのせいでお茶会に呼べなかったのよ」


つまらなそうにヴァイオレットは言う。


「そう言えばそのような事がありましたね」


リズは相槌を打ちながら次にヴァイオレットの書棚の整理を始めた。


「でも本当に残念だったわ。まさかあんな貧相な服でお茶会に来るなんて。笑いものに出来ると思ったのに気絶してるんだもの。あれでは平民と変わらない格好よ。他の令嬢達は皆ドレスだったというのにあんな服を着ていられるなんて本当に恥ずかしくないのかしら。気絶さえしていなければお茶会に参加させて、からかうことが出来たのに」


「…」


クスクス笑いながら言うヴァイオレットをリズは黙って見ていた。


「ねえ、スカーレット嬢は次の誘いに来てくれるかしら?」


「え…?またお誘いするおつもりですか?」


「ええ。出来れば誘いたいわ。だってどんな手を使ってアリオスを誘惑したか知りたいと思わない?」


「そうでしょうか…?」


リズは困った様子で返事をする。


(ヴァイオレット様にも困ったものだわ…)


本来なら皇女という身分であるならば、とうに他国へ嫁ぐか、高位貴族と婚姻しているのが世間一般である。しかし、あいにく皇女が男性に対し奔放という事が知れ渡り、さらにもう乙女では無いという事もあり、なかなか嫁ぎ先が見当たらないのも当然であった。


「はぁ〜…それにしても退屈だわ…」


ヴァイオレットが大きく伸びをした時、扉がノックされた。


「あら、誰かしらね?」


「私が対応致します」


リズが扉へ向かい、ドアを開けるとそこには年若いメイドが息を切らせながら立っていた。このメイドはヴァイオレットに可愛がられているメイドである。


「あら、貴女は…」


すると背後からヴァイオレットが声を掛けてきた、 


「アデーレじゃないの!どうしたの?」


「あ!ヴァイオレット様!たった今…アリオス様がおいでになりました!」


「え?!本当に?!」


ヴァイオレットは笑みを浮かべると自室を飛び出した―。







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