第4章 13 退避

 それから約小1時間後―


ようやく身体が動かせるようになったスカーレットは2人の助けでベッドから起き上がることが出来た。


「スカーレット様、歩けそうですか?」


カールが心配そうに尋ねてくる。


「ええ、もう大丈夫です」


「では早急にここをさりましょう」


ブリジットが言う。


「え、ええ…でも勝手に帰って大丈夫かしら…」


スカーレットはアイザックに無理矢理手篭めにされそうになっても、ヴァイオレットに黙って帰ってもいいものか迷っていた。するとカールが言う。


「何を言っているのですか?お城の人達が強引にスカーレット様を連れてきたんですよ?ここの人達は人さらいです!むしろ皇女様の方から謝りにくるべきだと僕は思います!」


いつになく、カールが強い口調で言う。余程今回の件で憤慨したようだった。


「ええ、カール様のおっしゃる通りだと思います。早くここから去りましょう」


ブリジットもカールに賛同するので、スカーレットは言うとおりにすることにした。


「分かったわ…では帰りましょう」


そしてスカーレットはブリジットの肩を借り、立ち上がった。



 先にドアから顔をのぞかせ、辺りを伺っていたカールが部屋に戻ってくると言った。


「大丈夫、今のうちです。どなたもいません」


「ありがとうございます。カール様」


スカーレットは礼を述べると3人はアイザック皇子の自室から抜け出し、足早にエントランス目指した。



 長い廊下を歩き続け、ゆうやく城の出入り口が見えた時に不意に背後から声を駆けられた。


「お待ち下さい」


「「「!」」」


スカーレット達は驚いて振り向くと、そこには馬車で迎えに来た初老の男性が立っていた。


「あ、貴方は…!」


スカーレットは声を震わせた。


「この方です!この方が僕たちをスカーレット様のいるお部屋へ案内して下さったのです!」


カールが言った。


「あ、貴方が…ですか?」


スカーレットの問に男性は答えた。


「はい、私がスカーレット様のいるお部屋へ御二人を案内させて頂きました。」


そして頭を下げてきた。


「本当に大変申し訳ございませんでした。まさかアイザック様がアリオス様の婚約者でいらっしゃるスカーレット様にあのような真似をされるとは…代わりに謝罪させて下さい」


そして顔を上げると言った。


「もう馬車はこの扉を開けた先に御用意させて頂きました。早急に去られた方が良いと思います」


男性はエントランスに向かい、扉を開けた。


「ありがとうございます」


スカーレットは頭を下げた。


「早く行きましょう!」


カールに手を引かれ、スカーレットはうなずくと3人は急ぎ足で扉を潜り抜けた―。



****


ガラガラガラガラ…


揺れる馬車の中、王宮の門を抜けるとようやくスカーレットは安堵のため息を付いた。


「ふう…」


「大丈夫ですか?スカーレット様」


ブリジットは心配そうに声を掛ける。


「ええ、もう大丈夫よ」


スカーレットは弱々しく笑みを浮かべた。


「それにしても皇女様も皇子様も酷すぎます…」


カールは悔しそうに手を握りしめ…。


「ゴホッゴホッ!」


激しくむせこんだ。


「大丈夫ですかっ?!カール様!」


スカーレットは慌て、カールの背中をさすりながら尋ねた。


「は、はい…安心したら急に…で、でも大丈夫ですから」


カールは弱々しげに笑みを浮かべる。


「カール様、私はもう平気ですからどうぞ休んで下さい」


スカーレットは隣に座るカールの頭を自分の膝に乗せた。


「え?スカーレット様?」


カールは顔を赤く染めてスカーレットを見た。


「お屋敷に着くまで、お休み下さい」


スカーレットは静かに言う。


「はい…ありがとうございます」


カールはそっと目を閉じた―。


 

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