第4章 12 救助
(いやああっ!だ、誰か!)
心のなかでスカーレットは声にならない叫びを上げていた。目からは大粒の涙を流し、必死で恐怖に耐えていた。
身体も動かせない、指の1本も自由に動かせないスカーレットは成すすべも無かった。アイザックは楽しそうにボタンを外して行くが、ふと手を止めるとため息をついて再びボタンを止め直し、スカーレットから離れて立ち上がった。
「…?」
わけが分からず涙で濡れた瞳でアイザックを見つめた。するとアイザックは言った。
「やれやれ…そんなに泣かれるとはね。痺れ薬を飲ませたのに、まさか涙を流すなんて…。こうみえても私は泣いている女性を無理やり手篭めに出来るほどの人間じゃないんだ。後1時間もすれば痺れも取れるだろうから…それまではここで休んでいればいい。誰にも部屋には入らないように命じておくから。それじゃ。」
アイザックは扉に向かって歩いていく。そして部屋を出る時に一度振り返ると言った。
「すまなかったね。私のしたことも…妹の事も…」
「!」
アイザックはそれだけ言い残すと部屋から出て行った。
パタン…
扉が閉じられ、スカーレットは1人部屋に取り残された。しかし、指1本未だに動かせない状態は恐怖でしか無かった。アイザックに襲われかけているときも恐怖だったが、こうして身体が全く動かせない状態で1人部屋に取り残されるのも…。
****
カチコチカチコチ…
時計の時を刻む音だけが響き渡る静まり返った部屋―。
どのくらいの時がたっただろうか?スカーレットには何時間も時が経過したように感じた。
(怖い…いつまで私はこのままの状態なの…?)
その時…。
パタパタパタパタ…
軽い足音が近付いてくる音が聞こえ、部屋の前でピタリと止まった。
(誰か…来たの?)
スカーレットの心境は複雑だった。1人取り残されている恐怖もあったし、誰かが部屋に入ってくるのも怖かった。何故なら未だにスカーレットは身体が動かせなかったからだ。
カチャリ…
ドアノブが回される音が聞こえ、スカーレットの心臓の鼓動が早まった。
キイィ〜…
扉が開く音が聞こえる。
(だ、誰…?)
ベッドに横たわったままのスカーレットには誰が扉を開けたか分からない。
その時―。
「スカーレット様!」
それはカールの声だった。
(え?嘘…カール様?!)
バタバタバタッ!
駆け寄ってくる足音ともに、上から覗き込んできたのはカールだった。
「スカーレット様…」
みるみるうちにカールの目に涙がたまる。そしてスカーレットにすがりつくと泣き出した。
「よ、良かった…!スカーレット様…!」
「カール…さ…ま…」
スカーレットは自分の口から言葉を出せるようになっていた。
「スカーレット様!」
次に部屋の中に飛び込んできたのはブリジットだった。
「よ、良かった…見つかって…!」
ブリジットも目に大粒の涙を浮かべてスカーレットの手を強く握りしめた。スカーレットはようやく口を動かせるようになったので2人に尋ねた。
「ど…どうやって…こ、ここ…に…?」
「僕…あの後、心配になってすぐにブリジットさんと一緒に馬車に乗って王宮へむかったんです」
カールが泣きながら言う。
「王宮に着くとすぐに出迎えてくれた男性が…この部屋を教えてくれたんです。『アイザック皇子は不在なのでどうぞ』って言われて…僕、どうしてもスカーレット様を助けたくて・・!」
ブリジットも目頭を押さえながら泣いている。
「カ、カール様…ありがとうございます…」
スカーレットは横たわったままカールに礼を述べると思った。
(カール様は…とても勇敢な方だわ…)
と―。
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