母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第４章 ５ 夜の訪問

　その頃、アリオスは執務室で書類に目を通していた。アリオスの机の上には書類が山積みになっている。それら全てに目を通し、書類にサインをしなければならないのだ。

「ふう〜…」

仕事に疲れたアリオスはペンを机の上に置くと、目頭を抑えた。

その時―

コンコン

執務室の扉がノックされた。

（ん…？誰だ、こんな夜更けに…）

アリオスは訝しみながらも返事をした。

「誰だ？」

すると扉の奥で声が聞こえた。

「スカーレットです。アリオス様。少しお時間よろしいでしょうか？」

「何？スカーレットか？」

驚いたアリオスは椅子から立ち上がり、扉を開くとそこには思いつめた表情のスカーレットが立っていた。

「スカーレット…どうしたのだ？こんな夜更けに」

「あ、アリオス様」

一方、驚いたのはスカーレットも同じだった。まさかアリオス自らが扉を開けてくれるとは思わなかったからだ。アリオスは仕事で疲れているのか顔色があまり良くかなった。

「アリオス様、顔色が悪いです。お疲れなのではないでしょうか」

「あ？ああ…確かに疲れてはいるが…それより俺に何か話があるのだろう？とりあえず中に入ってくれ」

アリオスは扉を大きく開け放つと言った。

「は、はい…失礼します」

スカーレットは執務室の中へ足を踏み入れた。

　「とりあえずそこに座ってくれ」

アリオスが進めたのは執務室に置かれたソファセットのソファだった。ブルーの落ち着いた色合いのベルベットのソファはアリオスの執務室によく似合っていた。

「失礼致します…」

スカーレットが座ると、マホガニーの長テーブルを挟んで、向かい側にアリオスは座ると早速口を開いた。

「スカーレット。話とは何だ？」

「はい、実はヴァイオレット様から本日お手紙を頂いたのです」

「何だって？」

途端にアリオスの眉間にシワがよる。

「今、その手紙を持ってきているか？」

アリオスに尋ねられてスカーレットは頷いた。

「はい、持ってきております」

そしてポケットから手紙を取り出すと、封筒をアリオスの方に向けてテーブルの上に置いた。

「見せてもらうぞ？」

「ええ、どうぞ」

アリオスは封筒に手を伸ばし、中から手紙を取り出すと目を通した。

「…」

しかめ面で手紙を読んでいたアリオスは読み終えると、ますます不機嫌そうな…苛立ちを含めた顔つきになり、深いため息をついて、頭を抑えた。

「ヴァイオレット…一体何を考えているんだ…」

そして顔を上げるとスカーレットを見ると言った。

「行かなくていい」

「え…？」

あまりにも単刀直入な回答にスカーレットは戸惑ってしまった。

「で、ですが…相手は皇女様です。それに私は伯爵家。格が違い過ぎるのに、皇女様のお誘いを断って良いのでしょうか？」

するとアリオスが言う。

「いくら皇女の誘いだからと言ってもあまりに横暴だ。何処の世界に２日後にお茶会に誘う皇族がいる？これは明らかに嫌がらせだ。こんな誘いに乗る必要は全く無い。俺が断りの手紙を書いて明日早馬で王宮に届けさせる。だからスカーレット。君は何も気にする必要はないからな？」

「アリオス様…」

「すまない。悪かったな…。まさかまだ皇女がそれほど俺に執着しているとは思わなかっのだ。あの時のパーティーでの態度と言い、今回の誘いといい…」

そしてスカーレットに言った。

「いいか、これからも皇女から手紙が届いたら必ず俺に報告してくれ。俺が返事を書くようにする。分かったか？」

「はい、分かりました」

スカーレットは頷いた。

＊＊＊＊

「本当に部屋まで送らなくても大丈夫か？」

扉の前に立つスカーレットにアリオスが尋ねてきた。

「はい、大丈夫です。すみません、夜分に訪ねてしまって」

「いや。気にするな。とりあえず手紙は俺が書くから皇女の事は気にするな。」

「はい、ありがとうございます。では失礼致します」

「ああ、気をつけて戻れよ」

「はい」

そしてスカーレットは頭を下げるとアリオスの執務室を去って行った。アリオスはその後姿が見えなくなるまで見送るのだった―。