第3章 22 凍りつく言葉

 アイザック皇子に連れられてやってきた談話室は大広間からほど近い場所にあった。床は薄いベージュ色のカーペットが敷かれ、壁紙は抑えた色合いの淡いバラ模様、天井からはクリスタルガラスで作られた大きなシャンデリアが吊り下げられている。部屋の中央には楕円形の大きな大理石のテーブルに、肘掛け椅子が4つ並べられている。談話室にはフットマンが控えており、アイザック皇子がテーブルに近づくと椅子を引いた。そして次にヴァイオレット皇女、アリオス、最後にスカーレットが着席すると頭を下げて去っていく。

そして次に別のフットマンがワインを持って現れると、アイザック皇子から順番にワインを置いていき、全員分配り終えると、一例して去って行った。


「では、みんなでワインでも飲みながら話をしようか?」


アイザック皇子はワイングラスを手に取ると全員を見渡した。


「お兄様、乾杯の挨拶はどうしましょうか?」


「うむ…そうだな。では4人の出会いを祝して乾杯…というのはどうだろう?スカーレット」


「え?あ、はい。そうですね。そちらでよろしいかと思います」


いきなり話をふられたスカーレットは戸惑いながら返事をした。そしてチラリとアリオスを見た。アリオスは不機嫌な様子で黙って座っている。


(困ったわ…私の行動がアリオス様を怒らせてしまったのかしら)


しかし、相手は皇子と皇女である。伯爵家であるスカーレットが誘いを断れるはずもなかった。


「よし、それでは我々の出会いを祝して…乾杯」


アイザック皇子はグラスを掲げると言った。


「「「乾杯」」」


3人はグラスを掲げると声を揃えて言い、全員がワインに口をつけた。アイザック皇子はよほどワインが好きなのか一気に飲み干し、テーブルの上にトンと置くとアリオスに尋ねてきた。


「それで?2人の馴れ初めを教えてくれないかな?」


「スカーレットは…私の弟の家庭教師としてやってきた女性です。」


「弟か…そう言えば確かアリオスには弟が2人いたな?どちらの方だ?」


「末の弟のカールの方です」


「カールはとっても可愛い子だったわ。今何歳になったのかしら?」


ヴァイオレット皇女がアリオスに尋ねてきた。


「カールは10歳になりました」


「まあ、もうそんなに大きくなったのね?以前貴方と恋人同士だった頃はまだ7歳だったのに」


そしてヴァイオレットはチラリとスカーレットを見た。


「…」


スカーレットは内心酷動揺していたが、平常心を保って黙って会話を聞いていた。


(ヴァイオレット皇女様とアリオス様は3年前は恋人同士だったのね…。アリオス様は身分の高い侯爵様だからお相手としては申し分ないものね)


「ねえ、スカーレットさん。私とアリオス様がかつて恋人同士だったときの馴れ初めの話…聞きたいと思わない?」


ヴァイオレット皇女はワイングラス片手にスカーレットに尋ねてきた。


「あ、あの…それは…」


スカーレットはヴァイレットの持っているワイングラスが空になっていることに気が付いた。


(もしかしたら…ヴァイオレット皇女様…ワインに酔ってしまわれたのかしら?よく見ればお顔も何だか赤くなっていらっしゃるし…)


「ヴァイレット、一体何を言い出すのだい?」


妹に甘いアイザック王子はやんわりと妹をたしなめた。


「あら、いいじゃないの。アリオス様とスカーレットさんの馴れ初めを聞かされのなら、私もアリオス様との恋の馴れ初めを話しても」


ヴァイオレット皇女は口を尖らせながら言う。


「それを言うのであれば、何故私と皇女様が破局したのかを話された方が良いのではありませんか?」


アリオスの言葉にその場にいた全員が凍りついた―。


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