第2章 10 日記帳
「とても素敵な時間を過ごせましたね。スカーレット様」
部屋に向かって歩きながらブリジットがスカーレットに声を掛けてきた。
「ええ。本当に・・でも少し気になることがあったわ。ひょっとしてカール様・・・お身体が弱いんじゃないかしら・・」
スカーレットは時々カールが食事中に咳き込む姿を目にした。その度に心配になって声を掛けたが、逆に彼は食事中に咳をしてしまった事を詫びてきたのだ。それも何度も何度も・・・。
「ひょっとして・・カール様が学校に行っていないのは・・お身体が悪いからかもしれないわ・・」
スカーレットはギュッと手を握り締めながら、つい思っていたことを口にしてしまった。
「ねえ、ブリジット・・カール様のお身体が悪いなら・・何故ご両親は彼をおいて避暑地で暮らしているのかしら?アリオス様だって・・いくら仕事が忙しくても・・ご自分の弟の身体を気遣って・・せめてお食事だけでも一緒にとって差し上げればいいのに・・まだ、たった10歳のカール様を皆が放っておくなんて・・・これではあまりにもカール様がお気の毒だわ・・」
「スカーレット様・・」
「けど、私にはカール様に何もしてあげられることが出来ない。私はここにやってきたばかりだし、もし当主様の気に触れて・・家庭教師の仕事を辞めさせられれば私たちは・・住む場所を失ってしまうし・・」
スカーレットは激しく葛藤していた。本当はアリオスにカールの処遇につい改善するように進言したい。カールの部屋からダイニングルーム迄遠すぎるし、おまけに食事はたった1人で給仕すらつかないのだ。あんな咳をしながら食事をしていれば、喉に詰まって取り返しのつかないことにもなりかねない・・。それらを恐らくこの屋敷に住む者たちは誰も知らないのだ。だが・・・。
「ブリジット・・今の男性恐怖症になってしまった私には・・とても侯爵様と話をする事は出来ないわ・・一体どうすればいいのかしら・・・」
そこまで話しながら歩いていると、ようやく2人は自分たちの部屋に到着した。
そして部屋の前でブリジットは言った。
「そんなことはありません。私は先ほどずっとお食事中のお2人を見ておりましたが・・・カール様はとても楽しそうに過ごしてらっしゃいました。なのでこれからはスカーレット様がカール様の家庭教師・・・いえ、姉になったようなつもりで接してあげるのが一番良いかと思います」
「姉・・・。ええ、そうね・・私がこれから・・カール様を守っていくわ」
スカーレットは頷くと、ブリジットの両手を取った。
「ありがとう、ブリジット。私・・カール様の姉になったつもりで・・頑張るわ」
「ええ、そうですね。私も協力させて頂きます。」
そして2人は部屋の前で微笑みあうと、別れの挨拶を告げて、それぞれの部屋へ入っていった。
パタン・・・
扉を閉じると、スカーレットは机に向かった。そして引き出しから日記帳を取り出し、テーブルの上に置かれた万年筆にインクをひたすと日記をつけ始めた。
今日1日にあった出来事を振り返りながら、ゆっくり丁寧に書いていく。そして始めて会ったカールの事・・・。
日記を書き終え、ページを閉じるとスカーレットは呟いた
「カール様・・・とても利発そうな男の子だったわ・・・でも身体が弱い事が気がかりね・・。そうだ・・!これからカール様について気が付いた事をまとめて・・そして手紙にしたためて侯爵様に渡すことにしましょう!」
スカーレットは早速、真新しいノートを引き出しから取り出すと、カールについて気が付いたことをノートにまとめ始めるのだった―。
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