第2章 9 3人での夕食会

「スカーレット様、ブリジットさん。僕と一緒に食事を取ってくれてありがとうございます」


カールはニコニコ笑いながら2人にお礼を言った。


「そんなお礼なんて言わないで下さい。むしろお礼を言うのはこちらの方です。私とブリジットをカール様の食事に誘って頂いて有難うございます」


「私からもお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございます」


スカーレットとブリジットは丁寧に頭を下げた。


「そ、そんな・・お礼なんて・・・」


カールは真っ赤になっ手俯いたが、すぐに顔を上げると言った。


「どうぞ座って下さい」


カールは自分の向かい側の席に2人分の席を用意していた。


「はい、失礼致します」


スカーレットとブリジットはカールの向かい側の椅子に座った。長方形の大きなテーブルには真っ白なテーブルクロスがかかっている。2人が座ると、奥の部屋からワゴンを押した3人のメイド達が現れた。そして3人の前に次から次へと出来立ての料理を並べていく。熱々のスープに焼き立てパン、カラフルなサラダにメインディッシュ料理・・等々様々な料理が置かれていく。その豪華な料理にスカーレットもブリジットも驚いた。


「ごゆっくりどうぞ」


メイド達は頭を下げて部屋から出て行くと、残されたのはスカーレットたち3人のみだった。


「それでは頂きましょう」


カールはナフキンを付けると笑顔で2人に言った。


「え、ええ・・・」


スカーレットは今の状況に少し驚いていた。とても広い部屋に大きなテーブル。なのに・・。


「あ、あの・・カール様」


「はい、何でしょうか?」


「本当に・・こんな広いお部屋で1人でお食事を召し上がっていたのですか?」


するとカールは寂し気に頷く。


「はい・・そうです。この屋敷には・・僕と一緒に食事をしてくれる人がいないので・・」


「そうなんですね・・・?」


「だ、だから・・僕、すっごく嬉しいんですっ!スカーレット様とブリジット様が・・僕の為に一緒に食事をしてくれることが・・」


「カール様・・!」


スカーレットはまだたった10歳のカールの健気さに胸が締め付けられそうになった。スカーレットは早くに母を亡くし、仕事で忙しい父は殆ど屋敷にはいなかった。だが・・彼女にはブリジットがいた。常によりそってくれ・・スカーレットは孤独を感じる事は無かった。だがカールは?両親は避暑地で暮らし、後を継いだ兄は仕事が忙しいからと言ってカールとは食事をしていない。そして2番目の兄からは嫌われているカールが哀れでならなかった。だからスカーレットは心に決めた。


(私が・・・チェスター家から許される限り、カール様のお傍にいて・・・寄り添ってあげないと・・!)


「どうしましたか?スカーレット様」


名前を呼ばれてふと見ると、そこには愛くるしい少年がじっと自分を見つめている。


「い、いえ。何でもありません。それではお料理が冷めないうちに頂きましょうか?」


「はい!」


カールが元気よく返事をする。


「そうですね。頂きましょう?」


その後、3人は楽しくおしゃべりをしながら夕食を楽しんだ。


突然もたらされた父親の死から始まり、義理の母と妹を名乗るアグネスとエーリカによって壊されてしまったスカーレットの日常、そしてアンドレアの裏切りと、彼によって植え付けられた恐怖。使用人達と屋敷との別れ・・・激動の日々を過ごして来たスカーレットにとって、今夜は久々に穏やかな時間となった―。

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