第2章 2 チェスター家に到着

 ガタガタと揺れる馬車の中でブリジットはスカーレットの様子を伺った。馬車に乗るまでの間はスカーレットは近くを通り過ぎる男性たちにビクビクしていたが、馬車に乗り込んでからは気分が落ち着いたのか普段と変わりない様子で外の景色を眺めていた。


「ブリジット、さすが『ミュゼ』は都会ね。さっき何台かの乗り物とすれ違ったわ。きっとあれが自動車というのね。馬よりもずっと早く走るから驚いてしまったわ。でもあれなら馬を使う事は無いから、馬の心配をしなくても済むわね?私もいつかあの自動車という乗り物に乗ってみたいわ・・・。」


スカーレットはうっとりした眼つきで言う。


「大丈夫ですよ。スカーレット様。私たちは当分この都の町『ミュゼ』で暮らすのですから・・・いつか乗れる機会はありますよ。」


「ええ。そうね・・・。」


その後、2人は『ミュゼ』のレストランで食事をした料理の話などをして盛り上がった―。




****


「ありがとうございました。」


スカーレットたちを下ろした馬車はブリジットから運賃を受け取ると、頭を下げて走り去って行った。



「こ、これが・・チェスター家なのね・・・。」


辿り着いた先には高い塀があり、ぐるりと敷地に張り巡らされていた。そのあまりの敷地の広大な広さに目が回りそうであった。


「ブ、ブリジット・・・中に入っていいのかしら・・?」


「で、ですが・・門の中へ入らないと話になりませんからね・・。」


「そ、そうね。」


スカーレットとブリジットは気を取り直すと、2人で一緒にアーチ形の門に触れた。


キィ~・・・・。


扉を開けると、さらに広大な敷地が飛び込んできた。屋敷に辿り着くまでには1K以上は歩かなければならなさそうだ。


「な、何て広さなのかしら・・・・。」


「そうですね、スカーレット様。」


「とりあえず、お屋敷に向かいましょう・・・。」


そして2人はトランクケースを持って、屋敷を目指した・・・。



****


 20分近く歩き続け、ようやく2人は屋敷の大きな扉の前に辿り着いた。


「ドアチャイムは無いのかしら・・?」


スカーレットはキョロキョロ扉の周辺を探し、ドアベルを見つけた。ベルの下には細長いチェーンがぶら下がっている。


「あったわ、ドアベルね。」


スカーレットはチェーンを引っ張り、扉の前でブリジットと2人で姿勢を正して待っていた。すると数分後、大きな扉がカチャリと開かれ、中から燕尾服を着こんだ上品な初老の男性が現れた。


(お・・男の人だわ・・っ!)


その瞬間、スカーレットの身体に緊張が走った。緊張で喉がカラカラになり、身体が小刻みに震え始めた。


「失礼ですが・・どちら様でいらっしゃいますか?」


良く通るバリトンの声が男性の口から出る。


「あ・・・。」


その声にますますスカーレットの緊張が高まる。そこでブリジットは自ら前に立ち、挨拶を始めた。


「私どもは、この度弁護士の先生でいらっしゃいます、ジョン・カーター様の御紹介でこちらで家庭教師をさせて頂くことになりました。こちらの女性がスカーレット・シュバルツ伯爵令嬢、そして私はスカーレット様の侍女のブリジットと申します。」



すると、すでに話は行き届いていたのだろう、初老の上品な男性は頭を下げてきた。


「これはこれは大変失礼致しました。私はこちらのお屋敷の執事をさせて頂いておりますセオドアと申します。すぐにご主人様の元へご案内させて頂きますので、どうぞこちらへお越しくださいませ。」


「は、はい・・・よ、よろしくお願い・・致します・・。」


スカーレットは何とか声を振り絞って挨拶をすると、セオドアはニコリと笑みを浮かべた。


「では参りましょう。」


そして2人はセオドアに連れられて屋敷内へと足を踏み入れた―。

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