第1章 33 アンドレアへの気持ち

「今朝は屋敷の中が随分慌ただしかったようね・・・。


床に座り、3人のメイドたちと一緒に昨日から続けていた荷造りの準備をしていた手を止めて、スカーレットはポツリと言った。すると、一番年若いメイドがそれに答えた。


「ええ。今朝はアグネス様がアンドレア様とエーリカ様の婚礼衣装を見に町へでかけられ・・あっ!」


その時、2人の先輩メイドにジロリと睨まれて彼女は自分がまずいことを口走ってしまった事に初めて気づいた。


「・・・・。」


スカーレットは悲し気な顔で荷物を見ている。


「も、申し訳ございませんっ!スカーレット様っ!わ、私・・とんでもない事を・・!」


若いメイドは半泣きになって、床に頭を擦り付けた。するとそれを見たスカーレットは笑みを浮かべながら言う。


「いいのよ、そんなに気にしないで?貴女は私の質問に答えてくれただけなのだから・・・むしろ教えてもらって良かったわ・・。」


スカーレットは慰めるように言った。


「スカーレット様・・。」


若いメイドは目に涙を浮かべてスカーレットを見上げる。そんなメイドを見たスカーレットはほかの2人のメイドたちも見ながら言った。


「皆・・・・気を使わせてしまったわね?でも・・・不思議な事なのだけど、私自身はもう・・アンドレア様の事は良くなったの。だって・・やっぱり婚姻前に私という婚約者がいたのに・・彼はまだ未成年の義妹のエーリカと関係を持ったのよ。昨日噂話を聞いてしまったのだけど、あの日・・・お酒に酔ってしまったアンドレ様を部屋にエーリカが連れて行ったときに・・無理やり襲われたっていう噂を耳にしてしまったのよ・・。まさかあのアンドレア様がそんなことをするなんて・・・。だからもういいの。アンドレア様の事は・・・吹っ切れたから。今はどうかエーリカを幸せにしてくれることを願うばかりだわ。」


心優しいスカーレットは悲し気な笑みを浮かべると言った。


「スカーレット様・・・。」


一番年上のメイドが沈痛な表情でスカーレットを見た。実はこのメイドはある秘密を知っていた。すでにこの屋敷の使用人たちは臨時手当金としてアグネスからお金を受け取り、半数以上が買収されていた。そしてアグネスは性に対して、どこか潔癖症なスカーレットに負い目を感じていた。そこでアンドレアを軽蔑の対象にするために出鱈目な噂を流すようにメイドたちに命じたのだった。スカーレットの耳に入るように・・。メイドは解雇されることが決まっていたが、アグネスから次の勤め先の紹介状を書いてもらう為に、真実をスカーレットに告ることが出来ずにいたのだった。


「そうだったのですね?でも・・・アンドレア様の事・・吹っ切れたようで良かったです・・。」


それまで黙って話を聞いていたメイドが言う。


「ええ。そうね・・さて。それじゃ荷造りの準備の続きを始めましょうか?」


「「「はい。」」」


スカーレットに促され、3人のメイドたちは荷造りを再開した—。



****

 

 その頃、ブリジットはアーベルと一緒に執務室にいた。2人はソファに座り、ブリジットは手紙を読んでいた。その手紙の差出人はヴィクトールからだった。


「やはり・・・警察はリヒャルト様の死を疑っているようですね? 」


手紙を読み終えたブリジットはテーブルの上に置くとアーベルに言う。


「ええ・・・そのようですね。」


アーベルは神妙な顔で頷く。


「それにしても何故警察はこの事実を公表しないのでしょうね・・・。どうしてあの母娘を野放しにしておくのでしょう・・・・このシュバルツ家がどうなっても構わないと思っているのでしょうか?」


ブリジットはいら立ちを抑えきれずにいた。


「ええ・・でもさすがはヴィクトールです。自分で情報屋を雇い、警察の動きをここまで把握することが出来たのですから・・。おそらくあの母娘は他にも犯罪を犯しているはずです。警察も警戒されないように動いているのでしょうね・・・。」


アーベルは手紙をじっと見つめた―。






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