第1章 25 弁護士からの衝撃的な話
その日の夕方―
アグネスが勝手に自室と決めたシュバルツ家の屋敷の中で最も広い部屋に2人の執事、グスタフとアーベルを初め・・ブリジットや代表して集められたフットマンにメイド達が集められた。それなのに肝心のアグネスはまだ姿を見せない。
「一体何の用があるというのだろう・・?」
「怖いわ・・何だか嫌な予感がするわ。」
「俺たちがこんな風に新しい奥様に呼び集められるのって・・初めての事じゃないか?」
「どんな話があるのかしら・・。」
使用人たちは皆不安げに話しをしている。
「全く・・・一体何だと言うのだ・・我々をこんな風に招集するなど・・。」
一番先頭の列に並ぶグスタフが悔し気に歯ぎしりをしながら言う。
「ああ・・あの女・・・もう既に我が物顔でこの屋敷の主のように振舞って・・。」
アーベルも眉をしかめながら小声で言う。
「私は・・・こんなところにいる場合では無いのに・・今はスカーレット様のお傍を離れるわけにはいかないと言うのに・・。」
コゼットはエプロンを握り締めた。その時―
彼らの目の前にある正面のドアがカチャリと開かれ、貴婦人たちの間で現在流行している紺色のサテン生地で仕立てられた美しいウォーキングドレスを着用したアグネスが髭を蓄えたスーツ姿の男性と共に現れた。途端にざわめく使用人たち。
「皆、良く集まってくれたわね。これから大事な話を伝えるつもりよ。隣にいるのは新しく雇った弁護士。彼から話をしてもらうわ。」
「何・・弁護士だって・・?」
小声でつぶやくグスタフの眉が吊り上がる。
「い、一体・・・弁護士の先生が私たちに何の話があると言うのかしら・・。」
ブリジットには最早嫌な予感しかしなかった。
「・・・。」
アーベルは黙って事の成り行きを見守っている。
「それでは、御集りの皆様に話をさせて頂きます。シュバルツ家の当主であらせられるリヒャルト・シュバルツ様は旅先でお亡くなりになりました。運河に落ち、遺体は見つかっておりませんが、もは生存は絶望的とみなし・・・来週葬儀を執り行います。」
「な・・何だってっ?!」
思わずアーベルは声を上げてしまった。すると弁護士は言う。
「尚・・・この葬儀に異議を唱える者は、この屋敷の使用人を辞めて頂きます。」
「そ、そんなっ!」
ブリジットは悲痛な声を上げる。他の使用人たちも不満の声を上げた次の瞬間・・・。
「お黙りなさいっ!文句があるものは今すぐ荷物をまとめて出てお行きっ!」
アグネスが声を張り上げる。
途端に全員水を打ったように静かになる。
「それでは・・・続けさせて頂きます。本来であれば・・・リヒャルト様の実子であらせられるスカーレット様が当主となられるのですが・・スカーレット様はまだ成人もされておらず、また心身喪失状態である為・・とてもではありませんが当主になるのは不可能であると判断し、こちらにおられますアグネス・シュバルツ様を当主とし・・ゆくゆくはアグネス様のお子様であられますエーリカ・シュバルツ様がアンドレア様を夫としてこの屋敷に迎え入れる事になり・・当主はアンドレア様に引き継がれる事になります。」
「な・・・なんだってっ!ふ・・ふざけるなっ!」
とうとう我慢が出来ず、グスタフは声を荒げてしまった。
「そこの執事・・お前は反対するというのだね?いいわ。お前はクビよ。今すぐこの屋敷を出ておいき!」
アグネスはグスタフを指さすと言った。
「わ・・分かりました・・!出て行けばよいのでしょうっ?!」
グスタフは憎悪の目で睨み付けると、踵を返して歩き去ってゆく。
「待てっ!グスタフッ!お前がいなくなったら、スカーレット様はどうなるのだっ?!」
必死で引き留めるアーベルにアグネスは言った。
「あら?それなら・・何の問題も無いわ。スカーレットにはこの屋敷から出て行って貰うから。」
「な・・何だって・・?!」
「ど、どういう事ですかっ?!」
アグネスの言葉にアーベルとブリジットは凍り付いた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます