VRMMOと師匠と私⑦
「た、丞先輩!? え、ど、どうしたんですか、突然・・・。 今日、シフトないんですよね・・・?」
平然な態度を装おうとしたが無理だった。 丞の正体を知ってしまってはやはり気まずい。 だが丞は何も返すことなく渉のところへと近付いた。
「おい渉。 そこから離れろ。 七海の端末には二度と近付くな」
「え、丞先輩、どうしたんですか!? 渉先輩は今、私を助けてくれてて」
「渉だったんだよ」
「何がですか?」
「七海に詐欺の取引をさせて、勝手に装備を買ったのは」
「え!?」
七海は丞と渉を交互に見つめる。 沙月は驚きのあまり言葉が出ていなかった。
「渉が七海のIDを使ってログインし、勝手に装備を買ったんだ。 それから自分のアカウントへ移すつもりだったんだろ?」
そう言って渉を見る。 渉は黙ったまま何も言わなかった。
「じゃあ、私がログアウトできなかったのって・・・」
「そんなことが起きていたのか? それはおそらく、一時的なバグを渉が仕込んでいたんだ。 IDを盗めるようにな」
「どうして丞先輩は、渉先輩だと分かったんですか?」
「取引は同じフィールドにいる者としかできないんだよ。 二人と離れた後、変に隠れているプレイヤーを見つけてな。 そのプレイヤーに見覚えがあった。 それが渉だったんだ」
渉は溜め息をついて観念したように言った。
「どうしてそのプレイヤーが俺だと分かったの? 俺とはフレンドになっていないよね?」
「昔チラッと渉の画面を見たことがあったからな。 変な名前だったから憶えていた」
「ふーん」
「お前の名前、__は有名だぜ? 超危険者リストに載ってんだよ。 名前が__だけで何もないから逆に目立って憶えやすい」
「・・・そっか」
渉は目をそらして悲しそうな表情をした。
「白状するんだな、渉」
「・・・」
それを七海は見ていられなくなった。
「あの、丞先輩、渉先輩はどうなるんですか?」
「詐欺で物を取引しようとしたり、誰かのIDを乗っ取るのは完全な犯罪。 利用規約に反する。 だから運営に連絡して、強制退会にしてもらう」
「でも、そこまでしなくてもいいんじゃ・・・」
「一番の被害者が何を言ってんだよ。 七海がよくても、これから被害に遭う人が困るだろ」
「ッ、それは、確かに・・・」
「七海、端末を貸せ。 今すぐに__を通報する」
椅子に座ろうとした丞を黙って渉は止める。
「何だよ、今更あがく気か?」
「今まで俺がほぼ全財産をゲームに注ぎ込んできたのに、それを台無しにする気?」
「当たり前だろ。 この結果を招いたのはお前だからな。 安心しろ、店長には言わないでおいてやる。 七海には盗った分を直接返せ」
「・・・」
「沙月、そろそろ時間だろ。 渉を連れて接客してこい」
「は、はい!」
沙月は恐る恐る渉の手を掴み控室を後にした。 二人きりになって丞が端末を操作しながら言う。
「七海は優し過ぎなんだ。 相手が渉だから、先輩だからってそういう気遣いはいらねぇ」
「でも」
「俺は七海にとって師匠なんだろ。 可愛い後輩、弟子が詐欺に遭っているのを見て黙っている師匠はいない」
「ッ・・・! 先輩、変わりませんね」
「何がだ?」
「ゲームの中でも、リアルでも。 師匠が丞先輩だと聞いて最初は驚きましたが、今となっては本当にそうなんだって思えます」
「何だよそれ」
「丞先輩は、どんな時でも弟子思いの優しい師匠なんですよ」
そう言うと丞は耳を真っ赤にして言った。
「うるせぇな! 後は俺がやっておくから七海も仕事に戻れ!」
「えぇ!?」
「運営に詐欺の詳細を書いて送っておくから! 早く行けよ!!」
「丞先輩、相変わらず強引だなぁ・・・」
七海を強制控室から出させた。 一人になった丞は呟く。
「どうして七海が急に素直になるんだよ。 ・・・調子狂うだろ」
七海は丞の見る目が変わった。 そして丞も七海の見る目が少しずつ変わっていた。
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