第18話:斬り込み
梅一はおりょうと虎太郎を連れて、日本橋神田にある旅籠に行った。
養父の息がかかった盗人宿ではなく、ごく普通の旅籠だ。
遊び人梅吉として賭場で知り合った若旦那がいる小旅籠だが、今は若旦那も賭場に出入りしなくなり、真っ当に働いている。
梅一は事情を話して匿ってくれるように頼み、宿泊費もひと月分前払いした。
座頭熊一こと長谷部検校の悪行は広く知られていたようで、若旦那も大旦那も胸を叩いて匿う事を約束してくれた。
梅一は安心して仕事にかかれるようになったのだが、問題は浪人者だった。
「旦那、いい加減偽名でもいいから名前を教えてくれませんかね。
ただの旦那じゃ分かり難くていけねえ」
「だったら熊の旦那とでも言ってもらおうか。
腐れ外道とは言え最初に殺す相手だ、呼び名くらい残しておいてやろう」
浪人者改め熊の旦那は淡々と言うが、梅一には不服があった。
「そうは仰いますが、熊の旦那には門限があるんでしょう。
それじゃあ殺しに差し障りがあるんですよ。
何とか夜中に出て来られませんかねぇ。
千代田の御城に忍び込むにしても、白昼堂々とはいきませんよ」
「そんな事は分かっている。
千代田の御城に忍び込めるだけの実力が付いたら、門限関係なくでてくるが、今はまだ門限を破る事はできん」
「だったらしかたがありませんね。
白昼堂々と当道屋敷に押し入って、熊一を斬り殺すしかありません」
口では仕方がないとため息まじりに言っているが、梅一の目は真剣だった。
何が何でも熊一を殺すという決意が見てとれた。
だがその決意に熊の旦那が水を差す。
「だがそれではお前と俺が疑われるのではないか。
今日あれだけ争った直後なのだぞ。
一番に疑われて手配書が回るのではないのか」
「確かにその通りではありますが、それだけの事ですよ。
お江戸は八百八町もあって多くの人がいるんです。
姿形を変えれば隠れ潜むことなんて簡単ですよ。
それに、熊一の悪行は広く江戸で知られています。
殺したいと思っている人間なんて掃いて捨てるほどいます」
「だが梅吉が捕まらなかったら、その熊一を恨んでいる人間が下手人にされてしまうのではないのか。
それでは少々寝覚めが悪いぞ」
「それは大丈夫ですよ、熊の旦那。
町奉行所がそんな事をするようなら、非番の町奉行所と火付け盗賊改め方に投げ文をして、町奉行と熊一の結託を知らせますよ」
「そうか、分かった。
梅吉がそこまで断言するのなら、信じよう。
ではいつ熊一をやるのだ」
「今直ぐですよ、今から惣録屋敷に行って、熊一を斬り殺すんですよ」
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