第十六話 作戦会議
なるほど、ニココは優秀な傭兵のようだった。自分と依頼者の安全を第一に、九重やソラをうまく巻き込んだ。
「で、どうするの? ニココちゃんたちは明日も教室に行けるかんじにならないよね」
「そうだねー。しばらくわたしたちは教室に顔を出せないね。わたしと黒川さんの失踪が結びつくまでにはもうそんなに時間はかからないと思うけど」
九重は自分が部屋で毒殺されそうになったこととリュンヌの話に関りがあるかどうか考えていた。関係はありそうだ。だが、九重の状況とリュンヌの状況とは違うところもある。リュンヌは逃げようとしたから撃たれたし、放っておくとその関川瑞雲とやらに都合が悪いので狙われている。だが、九重はなぜ狙われているのかわからない。ただ、共通項はある。ライトヒューマンソサイエティだ。
「実戦経験もなければ戦闘訓練も積んでいなさそうなお二人を仲間に入れていいものか、わたしは疑問ですが……すでに巻き込まれているというのには同意です。ただ、もうお支払いはニココさんに済ませているので、わたしからお金はもう出しませんし、ありませんので」
リュンヌはソラと九重を交互に見た。九重がニココを見るとニココは頷いた。
「ビジネスだからね。お金は十分もらってるよ。三日後、宇宙港に来るルーマンのエージェントに黒川さんを引き渡すまでの分としてはね」
「帰っちゃうのー?」
ソラは残念そうに言った。さっき出会ったばかりなのにもう離れ離れになるのが嫌だといわんばかりだ。
「このことを上に報告しないといけませんし、事態が解決するまでは学校生活などできないでしょう」
「中条エトアルは知ってるのか?」
「上」という言葉で九重はエトアルを連想した。エトアルのあの偉そうな態度は軍のなかでも上位だからではないかと思ったのだ。
「ええ、もちろん。中条さんは宇宙軍のエリートで階級は少佐。わたしなんかよりもよほどキャプテンらしい人です。もしかしてプリンセス科なんですか? 入学式でお見かけはしましたが、どこの科まではわかりませんでした」
九重とソラ、ニココは頷いた。三人ともエトアルとはそれほどのコミュニケーションをとれていないので微妙な顔だ。だが、リュンヌはそれに気づかない。
「でしたら心強いです! そうだ。まずは中条さんにこのことを伝えましょう!」
リュンヌは顔を輝かせている。ニココはそれを見て、ぽん、と手を叩いた。
「確かに。人間至上主義のライトヒューマンソサイエティが一年生のキャプテン科を巻き込んで銀機高を占拠しようとしているのなら、人間以外はみんな敵。とすれば、エトアルやメイフェアもわたしたちと協力するはずよね。アオイ先生だって、きっと」
「そのアオイ先生という方は、人間ではないのですか?」
リュンヌが当然の疑問を発した。リュンヌの話では教師もすでに抱き込まれている可能性は高い。
「ワイズの三つ目人なんだってー」
ソラが答えた。
「え。そんな、神様みたいな種族じゃないですか! そんな種族だったら、こんな事態、すぐに収拾してくれるはずですよね」
九重は、しかし、嫌な予感しかしなかった。もし神様のような存在なら、確かにこんな混乱は放っておくはずがない。知らないわけはないだろうからだ。もし放っているのだとすると、元々無力だという可能性はある。あるいは無力化されているか。
ワイズ人がいくらサイコキネシスやテレパシーを駆使すると言っても一人では無敵とまではいかない。人間用Sクラス装備は当然サイコキネシスやテレパシー対策を備えている。ワイズ人は単独でも高い戦闘能力をもつと噂されているが、そもそも戦場で見かけられたことはほとんどない。自衛のためにそんな噂を流しているという話もある。ワイズ人の数が極端に少なく戦争になれば簡単に数で押し切られるため、神話化することで自分たちと自分たちの星を守っている。そんな話は、昔からずっとまことしやかにささやかれている。神話は神話。神様のような種族はあくまで神様の「よう」だというにすぎないというのだ。
「それはともかく。アオイ先生も人間ではないわけだから、危険にさらされている可能性は高い。でもまあ、どこにいるかわからないから、まずは寮にいるはずのエトアルとメイフェアから訪ねてみてくれないかな。黒川さん、それはわかるよね」
一年生には寮の三階が割り当てられているということはなんとなくわかってはいるものの、誰がどの部屋にいるかまでは公開されていない。ソラがニココの部屋を知っていたのはニココに聞いたからのはずだ。
「はい。寮生名簿でしたら、すでに取得済みです」
「それって非公開だよね」
九重がうっかり聞いてしまった。
「はい。非公開です。ですがこのような状況なので、非合法的な手段で取得しました」
「黒川さんは軍でもネットワーク部隊なんだって」
ニココが補足した。リュンヌは携帯端末を操作した。
「中条さんは……ここですね。寄居メイフェアさんは……ここです」
リュンヌは携帯に表示された寮の図面を指し示した。エトアルの部屋は比較的近く、メイフェアの部屋はけっこう離れていた。
「じゃあ、ごめん、九重、ソラ、行ってきてくれないかな?」
そう言うと、ニココは手を合わせた。
「んもー仕方ないなー」
ソラは口先だけでそう言うと、すぐに席を立った。
「ほら、行くよ。九重。ボヤボヤしてらんないよ」
妙なやる気まで見せていた。九重は、いったん部屋の外に出ると何があったものかしれない気がして怖かった。
「大丈夫だよ。さすがに寮の廊下では何も起こらないと思うよ」
ニココは一応、九重を安心させようとした。九重は結局ソラに引きずられるようにニココの部屋を後にした。
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