第2話

「ユラユラと揺れ彷徨う」2


 龍ちゃんと色んな街を当てもなく彷徨ったー。


 大した会話も無いままひたすらに歩いた。新宿から代々木、原宿、渋谷からの目白、池袋、大塚、そこから神楽坂を回ってからの新宿へ戻る。

 行き交う人は自分以外を障害物を避けるかのように歩いたり自転車に乗っている。車はもはや人間では無くて機械が勢いよく走っているだけにしか思えない。人も心もゆがんで見える。他人から私を見ても歪んで見えてると思った。


 大通りを歩いたり、路地裏に入ったりを繰り返す。

 大通りは人がたくさん居て歩きにくい、路地裏は人が少なくて歩きやすいが取り残された気分になる。

 見たことのない国の旗が風になびいている。青い地に太陽のマークの旗の建物に近づくと西洋式の大きな建物で門には警察官が立っていた。何処かの国の大使館であった。警察官に“ご苦労様”の敬礼を左手ですると警察官が敬礼を返してきて「右ね!」とニコりと微笑んだ。

 警察官の微笑みは何だか安心するー。


 閑静な住宅街と高級車、セレブ達とイタリアンレストラン、人気のスウィーツとOL、個性と美容師、日本と桜ー。


 歩いているだけで色んな事を知って、色んな人を見る。今までは何となく通り過ぎていた足元に咲くタンポポ、そのタンポポの葉の鋸歯をダンデライオンと言うらしい。街路樹の銀杏の枝を丸く残す剪定をライオンズテールと言うらしい。ライオンズマンションは結構たくさんある。

 なぜかライオンばかり気になる。西武ライオンズのファンにでもなろうかと思った。


 小説を書くための修行にはならないが、街をぶらぶら歩くだけで楽しくなって、明日は何処に行こうかとワクワクしてくる。明日の事なんて気にしていなかったけど今は明日が気になる。路線図も気になって色んな地名も気になる。擦れ違う人がどんな人生を歩んでいるのかも気になる。


 自分が何者かなんて気にならなくなって、今は何者かに自分が成っていくのか知りたいー。


 街を歩くって“生きる”事だと思う。


 前に進まないと同じ景色の中で自分が景色に溶け込んでしまう。他人に気付いてもらえずに私を置いて皆は先へ行ってしまう。そして何処か諦めのような感情に支配されて無気力に時を過ごしていき、もともと無い目的を失ったと錯覚を繰り返していくー。


 私は心の奥で“何かしたい、何かしなくちゃ”と思ってきた。最近はそれすらもどうでも良くなっていたが、未来を明るく見ているカオリと夢を諦めないでがむしゃらに生きてる龍ちゃんと、とことん良い人の女将さんと知り合って毎日こうして会っているうちに何かしなくちゃなんて考えなくて良くて“何がしたいのか”が大事で急成長中の私は一皮剥けていると自画自讃ー。

 目の前で笑ってるこの人達と何だか心で繫がっていて家族みたいだなと感じてい

る。私はこの人達との物語を書いていく、その為にひたすらに歩くのである。あっちこっちと寄り道をしながらゆっくりと前へ進むのである。


 そして、ユラユラと揺れ彷徨いながら私は、明日の朝に陽が昇るのを楽しみにしている。

 東西線の階段を明るく輝く出口へと昇っていく、生ゴミを漁っているカラスは私の道しるべになる。


 私は感じたままに


 それを


 書く


おわり

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ユラユラと揺れ彷徨う 門前払 勝無 @kaburemono

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