どこにである詩

金木 惺

#1.明けない夜

 私は朝が来るのが怖い。

 朝が来て、仕事に行く為に起きる。

 たったそれだけの事が辛いのか、仕事自体が辛いのかわからない。

 だけど夜、寝るときになると、朝が来るのが怖くなる。

 毎晩死にたい気持ちで頭がいっぱいになり、目が覚めるとどこか違う世界にいたらいいのにと思っていた。


 そんな事起こりはずがないのに……


 《明けない夜はない。》

 私はこの言葉が嫌いだ。

 誰が最初に言ったのかは、わからない。

 色々なアーティストや詩人が明日を生きる為の後押しをするように、簡単にこの言葉を口にする。

 《明けない夜はない。》

 それは明日に希望を持たせてくれる耳障りの良い美しい言葉だ。直向きに努力を続けてきた人に訪れる苦難や困難に、立ち向かわせてくれる力のある言葉だ。

 一方で終わる事のない苦難も困難も続くし、立ち向かう勇気のない者たちにとっては残酷な言葉にもなる。

 世界は広いが、自分の世界は狭い。

 学校に会社、ご近所付き合い。

 そういった小さな世界で生きていくには一人では難しい。

 正直一人でも生きてはいけるだろう。

 だがそういう者を良しとしない者もおり、必ずと言っていいほど問題が起こる。

 テレビのコメンテーターは言う。


 「人生は長いのだから我慢をすればきっといつか終わる」


 こんな無責任な言葉を自分の善を押し売りし、自己満足したいがために簡単に言う。

 当事者からしたらたまったものじゃないよね。


 きっと私がいなくなっても、悲しむ人は少ないだろう。

 友達には風の噂程度で、「あの人、自殺したらしいよ?」って言われるのがオチだ。

 そして2、3日間くらいは話題になるけど、一週間も経ったらきっと記憶の隅に追いやられいずれ忘れ去られるだろう。

 人生の主人公は自分だが、誰かの人生の主人公は当たり前だが決して自分ではないから。

 私がいなくなっても世界は回り続け、なにも変わらず進むだろう。

 だが私がいても世界は回り続けるし、なにも変わらず進むだろう。

 インフルエンサーでもなければ、どこか大企業の重役でもない。

 大した影響力もなければ、人に誇れる長所もない。

 私がいなくても誰も困らない。

 

 なら私が生きてても誰も困らないだろう。

 だから私は好きに生きよう。

 

 いずれ立ち向かわなければならない、その時まで。

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