嵌った沼とは別の沼
思えばその入り口は、バラ栽培を始めて二年目から、新たに手を付けたSNSが切っ掛けだったように思う。
モリニューさんやジャクリーヌ嬢、木香薔薇三姉妹やセラフィムさまが、思いの外綺麗に咲いてほくほくだった私は、可愛い・綺麗なバラちゃん達を多くの人に見てもらいたくなったのである。
一時期は、インターネット内のコミュニティーに参加して様々な活動をし、オフ会などにも参加したことがあったが、現在の仕事が多忙になり、先代愛猫娘が高齢で目が離せなくなったこともあって、なし崩しにフェードアウトしていた。FacebookもTwitterもInstagramも、どのようなものであるかだいたいは理解していたが、特に始める動機もなかったので手を付けていなかった───のだが、ここに来て、理由が出来てしまったのである。
まあ、何もかもを管理するのは無理だろうと、一つだけ始めたSNSはTwitterだ。バラちゃんと当代愛猫娘を自慢したいだけだったので、本名を明かす気はなく、画像だけではなくコメントぐらいは呟きたかったので、そういう選択になった。
その結果、近年の多忙さ故に、家族と会社の人間と旧知の友人達としか付き合いが無かった私に、インターネット内とはいえ新しい出会いが訪れ、なんとも新鮮だった。昔の経験を踏まえ、地雷を置かないよう・踏まないよう気を付けてスタートしたが、それでも何度かはやらかした。使い勝手や最近のインターネット上のマナー加減など、新しいツールを使用する時の最初の四苦八苦を越えると、動植物好き・自然好き・写真好きのツイ友さんとフォローし合う中になっていたのである。
しばらく離れていたインターネット内のお付き合いなので、ツイ友さんの中に小樽の方や盛岡の方、近隣県の方々が普通に居て、『ああ、距離を越えるのがインターネットだったなぁ』と懐かしく思い出した。それからというもの、桜前線を含む季節のお便りや、自宅を含む各所で見付けた綺麗な花や生き物、ちょっと面白かった風景やそれぞれの自宅にいるモフい子達の自慢など、実に楽しく交流を続けている。
───だが、しかし……ここにも危険な扉は存在していた。
ツイ友さんの中には、実に素晴らしい写真を撮る方がいらして(どうやらプロの方もおいでのようだ)、風景や鳥達・小さな草花など、『このまま写真集が出来るんじゃね?』的は画像を見せてくださるのだ。
当時の私の撮影装備といえば、スマホのカメラと随分昔に買ったCANNONのコンデジ───「本当は、うちのバラちゃん達はもっと綺麗に咲いているんだ!」との思いが強くなり、長い長い……本当に長い間封印していた『一眼レフ欲しい』熱が、むくむくと……。
かつて、私が一眼レフを使ったのは、学生でグラフィックの勉強をしていた頃である。勿論、そんな物を買うお金はない。けれども、身近に一眼レフカメラは存在していた。父の宝物のカメラが。
当然、宝物故に「貸して」といって貸してもらえる物でもなかったのだが、すっかり知能犯として成長していた私は、父が会社で働いている間に、カメラの中にフィルムが装填されてない場合を狙って、こっそり使っていたのである。ポケットの中には
一応、遊びに使っていたわけではなく、モチーフに使う精密な資料写真が欲しい時のみの行動だった(しかし、フィルムを三本用意しているあたり、遊び心がなかったとは断言できない)。
そんな青春の一ページを懐かしく思い出しながら、仕事の間の待ち時間に、深く考えることなく電気量販店に行ったのが運の尽き───というより、正しく自業自得の自爆行為だったのは告白するまでもない。
これまで封印していたが故に、一度として立ち寄ったことがなかった一眼レフ売り場は、想像以上に楽しかった。
それに、考えなくても判っていた筈なのだが、一眼レフとはいえ現在はデジカメなのだ。学生の財布を圧迫死させる勢いだったフィルム代も現像代もプリント代も、もはや完全に0円。一眼レフカメラで撮った写真の、重い画像データ量に耐え得るPCはすでにある。
いやいや、ちょっと待て、自分。確かに昔より安価になったとはいえ、一眼レフカメラは安い買い物ではない。カメラとレンズがあればいいというものではないのだ。各種レンズ保護フィルターや、カメラバックやお手入れの道具もいるだろう。それに、どうせなら多少の望遠が出来なければ、いいカメラの楽しみは減るのでは?───と考えた目の前に、Wズームセットというものが居た。通常レンズと望遠レンズがセットになったものだ。勿論、単体の望遠レンズの価格を考えると、セットになったレンズの機能性はたかが知れているだろう。けれども、これで『多少の』の部分は満たされるのでは?
こらこら、問題はそこじゃない───確かにPCは高価だったが、作品を書く上での必需品である。加えて、調べものも出来るし、仕事でも使える。だが、一眼レフカメラは、完全に道楽なのだ。単なる道楽に、これだけの資金を投入しても良いのだろうか?
何故いけない?───仕事と両親と抱えたストレスは健在で、この状態がいつまで続くかも判らない。それに、低所得者層とはいえ、自分には養わなければならない妻子……もとい旦那も子供もいない。愛猫娘だけだ。
欲望の傾きはどんどん大きくなっていったが、さすがに一度で決断するには金額が太かった。
迷い・迷いながら、幾度も同じ店に通う。介護タクシーの仕事で週に三回の定期便がその店の付近にあり、定期便の度に待ち時間が発生するのも良くなかった。更にその電気量販店は、かつて私が「これで人生最後だろう」と高いスペックのPCを求めて通い、私の数多い疑問&質問にとことん付き合ってくれた店で、担当の店員さんもその時のことをよく知っていた。だから、私が納得するまで通っても、快く付き合ってくれたのである。
あれこれ迷っているうちに、季節は夏のボーナスの時期になり、そして───ご想像の通り、
数年経った現在、一眼レフ沼は一応の落ち着きをみせている。落ち着くまでに、純正のマクロレンズが一本と三脚が増えはしたが。
おそらく、次に一眼レフ沼が発動することがあるとすれば、バズーカと
【
フィルムの感度のこと。現在ではISOと呼ばれるのが普通。デジカメでもそう表記される。普通のスナップ写真では100が普通で、少し感度が良いものを求める場合に400を使う。800や1000は、劇場や夜間撮影で使われる。
【マクロレンズ】
接写能力が高いレンズ。より被写体に接近して撮影することが出来る。ただし、手ぶれを起こしやすい為、三脚が必要。もしくは、全集中で脇を締めることが重要。
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