楓坂の反撃?
ジュエリーショップの追加イベント『恋愛バラエティ企画』の内容が公開され始めた。
それぞれの体験談を小説家が脚色を加えてストーリーとして仕上げ、それをブログに公開している。
言ってみれば、短編のネット小説のようなものだ。
まず一人目は結衣花。
電車の中で行う何気ないやり取りを恋人同士のように描かれていた。
そして二人目は音水。
先日あった停電騒ぎの話を基に、オフィスラブのような展開を短編小説にしている。
もちろん登場人物は仮名だが、これが意外と話題を呼んだ。
実際にあった出来事を恋愛小説にし、俺が指輪を送る相手を選ぶのだ。
特に女性にとってはたまらない企画だろう。
そして結衣花ストーリー・音水ストーリーの内容を読んだ楓坂はふくれっつらを作ってクッションを抱きしめていた。
「んむっ!」
「……なにをすてねるんだ」
「だって、音水さんのストーリーってドラマチックで内容が神がかってるじゃないですか。こんなの誰が見ても音水さんと和人さんが両想いになると思うじゃないですか」
そう。停電のオフィスラブという展開は多くの女性達の心を鷲掴みにした。
今ネットでは音水ストーリーはちょっとした話題になっている。
もしこれがただの創作であればここまで反響はなかっただろう。
だが実際にあった出来事を基にしていることが、読者達の関心を集めたようだ。
「いちおう言っておくが、残業になったのも雷が落ちて停電になったのも偶然だからな。それに何もなかったんだし」
「でもそれって……ドラマならメインヒロインに起きるようなシチュエーションでしょ……」
「まぁ、そう言われるとそうなんだが……」
もしオフィスラブをテーマにした恋愛小説なら、このままゴールインするのが確定だろうな。
正直なところ、俺も楓坂と付き合ってなかったらその場の雰囲気に流されていたかもしれない。
「しかし、舞が対抗意識を燃やすなんて、ちょっと意外だな」
「和人さんは……私のものだもん……」
すると楓坂は、突然俺の胸に飛び込んできた。
「ん~~~っ! 和人さんは私だけのものだもん!」
「わかってるよ。浮気なんてしないから安心しろ」
そう言ってやると楓坂は安心したようにスッと呼吸を整える。
そして「ふふふ」と小さく笑った。
「和人さんの腕の中って不思議。こうしているだけで全身の力が抜けていく」
「もう不安はないか?」
「はい。頭、なでて」
「しょうがないな」
頭をなでてやると、彼女は無邪気な微笑みを浮かべた。
出会った頃はあれだけ俺のことを嫌っていた彼女が、今ではもう子供のように甘えてくる。
本当に可愛いな。
無性に今の楓坂を抱きしめたくなる。
いつから俺はこんなに楓坂の事が好きになったんだろう。
もう俺は彼女無しでは生きられないのかもしれない。
ま、そんな感情を見せてしまったら重っ苦しいよな。
俺は楓坂の頭をなでながら、優しく訊ねる。
「機嫌は直ったか?」
「あと少し」
「わかったよ」
こうして俺達は抱き合ったまま、しばらくゆっくりと時間を過ごした。
すると楓坂がふとこんなことを言い出した。
「でも今回の恋愛バラエティ企画は音水さんの一人勝ちね」
俺は首を傾げる。
「俺が選ぶんじゃないのか?」
「だってこのブログ小説はいろんな人達が読むのよ。誰が見ても音水さんが勝ちなのに、私を選ぶなんて変じゃない」
「そうか。ちゃんと内容で評価しないと、ヤラセになってしまうもんな」
……と、俺はここでもう一つの問題に気づいた。
「あれ? そうなると幻十郎さんに俺達の関係を認めてもらうっていう計画も……」
「ダメね……」
しまった。
これじゃあ肝心の目的が達成できないじゃないか。
うーん。でもこの状況をひっくり返すなんて難しいぞ。
すでに多くの読者は音水ストーリーを支持している。
これを超えることなんてできるのか?
だが、楓坂は顔を上げてとんでもないことを言い出した。
「こうなったらこちらもデートプランを変更しましょう」
「しかし突然の雷と停電で二人っきりなんてシチュエーション、狙ってできることじゃないぞ」
「神様が音水さんの味方をするなら、私は知識でカバーします」
「ほう……。して、その心は?」
楓坂は女神スマイルで人差し指をくるりと回す。
「名付けて『和人さん、イケメン化計画デート』です」
「……嫌な予感しかしないんだけど?」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、楓坂はいったいどんなことを仕掛けるのか!?
投稿は【朝7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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