展望台へ行こう
いよいよストーカーを捕まえるために行動を開始する。
会社の仕事を終えて、いざ目的の展望台に向かおうとしたのだが、ことはそううまくは進まない。
なぜか後輩の音水が、ずっとついて来ていた。
「ねぇ~、笹宮さぁ~ん。今日は私の部屋に寄って行ってくださいよぉ~」
「あのなぁ、音水。今日は用事があるから無理だって言ってるだろ」
「大丈夫ですよ。用事なんて無視しちゃいましょ」
「なぜそうなる?」
どうして俺を部屋に誘うんだ?
理由を聞いても答えてくれないし、困ったなぁ。
「とにかく今日はダメだ。今から俺は……」
おっと、ここで展望台に行くって言うと俺がYouTuberだということがバレてしまうかもしれない。
ここは上手に誤魔化さないと……。
「えっと、今から俺は……期間限定『月見ハンバーガーDX』を食べに行かないといけないんだ」
「え?」
音水はまるで、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「月見……ハンバーガーですか?」
「ああ。そしてDXだ」
「……もしかして夜景を見るって、月見ハンバーガーを食べるという意味だったんですか?」
んんん? 月見ハンバーガーの話がどうして夜景の話になっているんだ?
まさか音水は昨日の配信を見ていて、俺がカップルYouTuberをしていることに気付いているんじゃ……。
って、まさかな!
そんな偶然、あるはずがない。
「とにかく、そういうわけだ。今日は勘弁してくれ」
とっさに言ったこととはいえ、月見ハンバーガーでは言い訳として弱いか?
音水って頑固なところがあるから、これで諦めてくれないかも……。
そう心配したが、意外と音水はすんなりと受け入れてくれた。
「わかりました。じゃあ、私は帰りますね」
「お、おう……」
まさか月見ハンバーガーで諦めてくれるとは……。
◆
そして目的の展望台に到着した。
時刻は夜の七時。
辺りは暗く、まばらではあるがカップルが夜景を眺めていた。
あとは怪しい奴を探すだけだが、真犯人は来てくれるだろうか。
その時だった。
「こんばんは、お兄さん」
「よぉ、結衣花……って、何でここにいるんだ?」
「昨日の配信を見て、展望台に行くって言ってたからここかなぁ~と思って」
「結衣花も動画を見ていたんだな」
「うん。ここで待ち伏せして真犯人を捕まえるつもりなんでしょ?」
「ああ」
そういえば今回の作戦は結衣花にも伝えていたんだっけ。
動画を見て、『展望台』というヒントからここに来たというわけか。
「それにしても、夜景のアイデアをくれた『生意気なJK』さんに感謝しておかないとな」
「素直に言われると照れるんだけど」
「どうして結衣花が照れるんだ?」
「気にしないで」
こうして俺はしばらく一人で夜景を眺めるふりをしていた。
だが、怪しい人物は現れない。
離れた場所で様子を見ていた結衣花が缶コーヒーを持ってきてくれる。
「……カップルは何組か来たけど、それっぽい人は来ないね」
「そうだな。……ん? アレは!?」
視界の隅に気になる人物がいた。
メガネが似合う髪の長い女性。
そう……、楓坂だ。
「楓坂!? なんでここに!!」
楓坂に俺がここに来ることは伝えてある。
だが心配をさせないため、おとり役をすることまで言っていない。
なのにどうして……。
まさか、俺がおとり役をしようとしていることに気づいて、様子を見に来たのか!?
その時、隣にいた結衣花が声を上げた。
「お兄さん! あっち!」
「えっ!?」
結衣花が指をさす先には、カーキ色の帽子を被った柿倉がいた。
以前結衣花が言っていた、楓坂を憎んでいる男だ。
柿倉はじりじりと楓坂との距離を詰めている。
そして、楓坂がそのことに気づいた時、柿倉は彼女に襲い掛かろうとした。
「危ない!」
全速力で駆け出した俺は、柿倉をタックルを食らわせる。
二人そろって地面に転がったが、俺はすぐに体勢を整えて柿倉を取り押さえた。
「やっと捕まえたぞ。ストーカー野郎」
「くっ! くっそぉ!!」
捕まって悔しそうにする柿倉。
駆け寄ってきた結衣花は言う。
「やったね、お兄さん」
「ああ」
「本当にいざという時はカッコいいんだから」
楓坂はというと、突然のことに驚いているようだ。
「笹宮さん……、私を守るためにこんな危険なことを……」
「黙っていたのはすまない」
「ううん。私のためにここまでしてくれて、嬉しい。ありがとう、笹宮さん」
楓坂は安心したように微笑んだ。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、柿倉から語られる真相。
投稿は【朝7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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