白猫のハクと笹宮


 YouTubeにアップする動画を撮影するため、俺達は結衣花の自宅にやってきた。


 ここで俺と楓坂は『どっちが猫にモテるか』という対決をして、その様子を撮影するのだ。


 結衣花の自宅は一軒家。

 二十畳くらいのオシャレなリビングで待っていると、結衣花が白い子猫を抱っこしてやってきた。


「じゃーん。我が家の一員。ハクだよ」

 

 驚きの効果音をここまでフラットに言うとは。

 結衣花は普段から淡々としゃべるクセがあるのだが、どうやら自宅でもそうらしい。


 しかし、『ハク』と紹介された白い子猫は本当に可愛かった。


「へぇ。可愛いじゃん」

「でしょ」


 すると楓坂が静かに動く。


「私から行きますね」

「ほう。自信満々じゃないか」

「私は結衣花さんの家に何度も来ているんですよ。もちろんハクちゃんとのコミュニケーションもすでに完了済みです」

「あ、きったね」


 妙に落ち着いているから何か裏があるのではと疑っていたが、すでに手なずけていたとは……。


 楓坂は白猫のハクに近づき、指でつんつんする。


「ハクちゃん。こんにちは~」

「にゃ~」

「かわいいでちゅね~。にゃんにゃん」

「にゃ~」


 マジでなついてる。

 っていうか、楓坂が幼児化して猫化しているのだが……。


 すると俺の隣に結衣花が座った。


「驚いたでしょ。楓坂さんって人間の男の人には敵対心が強めだけど、動物には優しいんだよ」

「へぇ。あの楓坂がねぇ」


 ん? 人間の男には?

 じゃあ、もしかして……。


「なぁ、楓坂って俺以外の男にもキツイのか?」

「うん。美人だからよくナンパされたりするけど、瞬殺で断ってるもん。むしろお兄さんがめずらしいんじゃないかな」

「というと?」

「よく言い合っている割に、楓坂さんってお兄さんに近づいていくでしょ? かなりレアケースだね」

「へぇ……」


 ずっと嫌われていると思っていたけど、楓坂の中ではまだマシってことか。


 それより今は『どっちが猫にモテるか』という対決中だ。

 動画の企画とはいえ、楓坂には負けたくない。


「じゃあ、今度は俺がハクの相手をしてやろう」

「うふふ。笹宮さんには無理じゃないかしら? 私でも最初は『シャー』ってされたんですよ」

「やってみないとわからないだろ」


 とはいえ、猫って意外と人を見ているからな。

 初めての俺には警戒しているだろう。


 とりあえず俺はハクに近づいて、指をねこじゃらしの代わりにして振ってみた。


「ハク~、こっちだぞ~」

「にゃ~ん」

「おっ。人懐っこいな。かわいいやつめ」

「にゃ~」

「ほれほれ。ここがいいのか? うりうり~」

「にゃ~ん。ゴロゴロ~」


 初対面なのに仰向けになってお腹を見せてくれるハク。

 これって猫が安心している時のポーズなんだよな。


 なんだよ。俺にもちゃんとなついてくれるじゃん。

 ……と、思った時だった!


「んんんむむむむっ~!」


 楓坂が、半泣きになっていじけていた……。

 さらに俺のすぐ傍にきて、指で脇腹をつっつく。


「むぅ~。このっ。このっ」

「おい、脇腹はやめろ。くすぐったいだろ。だったら……。おりゃ」

「はぅ!? やり返しましたね! 女子の脇腹をつっつくとかセクハラですよ」

「先に攻撃したのはそっちだろ」


 楓坂が俺の脇腹をつっつき、俺も同じようにやり返す。

 こんな不毛なやり取りを数回繰り返した時、結衣花が一喝した。


「二人とも、そろそろケンカはやめなさい」

「「はい……」」

「にゃ~ん」


 なぜか、ハクまで鳴いていた。


 それからしばらくして、楓坂はハクと一緒に遊んでいた。

 こうして猫と戯れていると、アイツって可愛いんだよな。


 リビングにあるテーブルの前に座っていた俺に、結衣花がお茶を持ってくる。


「でもお隣さんになるだけで、随分仲良くなったね」

「ああ、この二日間だけうちに泊めてるんだ。引っ越したはいいが部屋が散らかっていて、とても住める状況じゃないんだよ」

「楓坂さんが? 部屋を散らかしたまま?」

「ああ、そうだが……」


 状況をありのまま伝えたのだが、結衣花はなにかが引っかかったらしく、首を傾けた。


「それ、おかしくない? 楓坂さんって整理整頓はキッチリするよ?」

「……そうなのか?」

「うん。それに散らかってるくらいなら、普通に自分の部屋で寝るんじゃないかな」


 それは……俺も感じていた疑問だ。

 帰り道に何気なく聞いてみるか。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回は、【楓坂視点】のお話です。


投稿は【朝と夜:7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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