第3話
身体で支払えと言われて、いったい何をさせられるのかと緊張していた私だが――。
「ほら、そこの文書、適当に年代別に並べといてくれる?」
気だるげな様子で、ヴィオレが私に向かって話しかけてきた。
「は、はい……」
なんと、ヴィオレ伯の研究の助手として、雇われることになったのだ。
しかも、廃城に住み込みで。
(行く当てがないから助かった……)
考え事をしていると――。
「きゃっ……!」
近くにあった書類を手に持った私だったが、山積みになっていた書物に躓いて転んでしまった。もちろん紙があたりに散らばっていく。
「あいたたた……」
転んだ時に鼻をどうやらこすったようだ。
「ただ働きも気が引けるだろうし、文字が読めるからって、魔術研究の手伝いでもさせようと思ったけど――」
ためいきをつきながら、ヴィオレ伯は呟く。
「雇ったのは失敗だったかな? やれやれ」
彼の物言いに、胸がずきんと痛んだ。
狐のような顔をした継母から、「役立たずのごくつぶし」とよく言われていたのだ。
そのことを思い出し、気づけば勝手に瞳が潤む。
こちらに気づいたヴィオレ伯が、ぎょっと目を見開いた。
「わっ――なんで泣いてるんだよ?」
「え、えっと……」
どんくさいのを気にしていた私は、いつのまにかぽろぽろと涙を流していた。
「ああ、俺が悪かったよ。言い方がきつかった。俺としては悪気はないんだけど、口調がきついって言われて、よく助手にしたやつが逃げるんだよね……」
そう言うと、彼は「はあ」とため息をついた。
「ほら、ルージュ。機嫌を直してくれない? 飴玉やるから」
そうして彼は手近にあった小瓶をとると、私の掌の上にころんと何粒かの飴玉を載せる。
カラフルな可愛らしい包みに入った飴を見ると、少しだけ心が安らいだ。
「ルージュは……俺のきつい口調にもさ、めげずについてきてくれるし……重宝してるんだよ」
ぼそりとヴィオレがそんなことを呟いた。
(聞き間違い――?)
「ああ、もう良いよ。仕事の続きをしてくれる――?」
そうして彼はまた机に向き合った。
(重宝している……)
そんなことを言われたのは、生まれてはじめてだった。
(ヴィオレ伯は、言い方はきつい――というか生意気な印象があるけれど、すごく優しい男性だわ……どうして悪魔伯なんて言われているのか、分からないぐらい親切な人……)
その日は、なんだか胸がぽかぽかしてきて、嬉しくて仕方がなかったのだった。
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