オッサンvs異世界転生~ クソッタレの世界へようこそ~

龍鳥

第1話 ここはどこだ、天国か

 夜明けの太陽が、真っ赤なオレンジのボールとなって、街の白んだ空から浮き上がっていた。太陽は、地平線と一つになり、川面にぼうっと銀色の光を投げかけていた。気温は27度くらいといったところか、魚と汐の香りのする微かなそよ風が匂わせる。あれはカモメだろうか、穏やかな波に飛び込んだかと思うと、すぐにまた浮上し、聞いたことないような鳴き声をあげながら、太陽に向かって飛んでいる。


 おれは詩人か馬鹿野郎。この街の目覚めを、おれは知らない。何故か?知るか馬鹿野郎。目が覚めたら見知らぬ街が目の前に広がって、見たことない鳥や景色がおれの眼前に広がれば、低能な馬鹿でも文豪家にもなれるわ。


 知らなねえ人間共が、朝の目覚めによる欠伸をし、ゆっくりと歩いてやがる。

朝の快適な空気を満喫したいジョギングしてる奴等は、噴水広場らしき周りを走ってやがる。街の通りでは、豚のような人間が果物を売ってやがる、傑作だ。

 

 豚が新鮮なフルーツらしき物と臭そうな赤い花を並べ替えて、店頭で忙しそうにしてやがる。いや、なんで豚人間が商売してやがるんだよ。


 歩道に新聞らしき配送屋が売店に束を落とし、情報に飢えた知らねえクソッタレたちにお決まりの政治や文化に目を通してやがるんだろう。字面を見たところ、俺の知らない言語ばかりだ。


 今のところ、俺の知っている場所が一つもない。通勤客でごった返す地下鉄の駅がぞろぞろ這い出る人込み、近くには慌ただしくコーヒーを飲んで立ち止まって、モーニングセットを食べるサラリーマン。スーツ、ネクタイという社会の業種を身につけた人間たちはここにはいない。

 これが俺の知っている街だ。空気が埃っぽく、手のひらや頬や額に膜が張ったような汗が出る吹き溜まりの最低な場所だ。


 だがここは、もっと最低だ。通りや歩道は、土埃だらけだ。すぐに街角を曲がれば影を差す行き止まりの殺人の発生率がうなぎ登りになるような弱い人間たちへの、ごみ処理場だ。


 むしゃくしゃしてきたぜ。知らない世界に来たのなら、おれがいた世界への『挨拶』をしなきゃならねえ。


 

 「ほら!!なにをしている奴隷ども!!さっさと商品を店に運ばんか!!」


 おれは街の中で、一番エレガントそうな店に目を付けた。店主らしき太った奴が、ガリガリに痩せているボロ雑巾の服を着た人間を従えている。立派なレンガ造りの建物は、ここが街の中心だと偉そうに叫んでやがるの鬱陶しい。

 街の中心地、まさに長年にわたって君臨してきた店の佇まいが、今日の獲物にはピッタリだ。


 だから突然、おれが物凄い怒りを爆発を発散させるのに、宝石を身につけたテブ店主目掛けて大音響とともに、建物が揺れるほど殴るのは当然の行為だ。


 

 「ぶへらぁあああ!!!!」



 醜い声が揺れると同時に、おれの拳は竜巻が一か所を突然襲ったように、内側に倒壊させた。その爆発で地面は揺れ、隣接する舗道は曲がった。窓ガラスとレンガは飛び散り、埃まじりの煙が高くのぼり、街が騒然とした。



 「おれ、こんな強かったけ」



 いつの間にか筋力が上がったどうかは知らないが、まあどうでもいい。

 デブ店主の仲間の一人が、こっちを青ざめた顔をして何かを叫びながら逃げて行った。もしもこの衝撃が、朝の通行人がいたとしたら巻き添えをくらって、歩道は死体の山になっていただろう。


 逃げて行った仲間の一人が、鎧を身につけた騎士団を連れてやってきた。弱い奴は強い奴に頼って泣き言する、どの世界でも共通なことのようだな馬鹿野郎。



 「貴様!!名高き商人殿になんてことを!!お前を逮捕する!!」



 なんだこいら、警察かなにかか??

騎士団長らしき男が大声をあげて部下に次々と命令をして、おれを囲い込み剣を向けてきた。

 おかしいな、ここが天国なら、おれは数え切れない罪を犯したのだから、この程度で犯罪なら犯行声明ぐらいだせば良かったぜ。こうなったら、ダイナマイトでもセットして店ごと爆破すれば良かったぜ。

 

 この街は、おれの知らない街だ。だから、いつどんなことをするかは自分の知ったことではない。おれをここに呼んだ張本人をさっきと同じように、ぶちのめすだけだ。



 「おとなしく投降しろ!!なぜこんなことをした!!」


 「ここの割引券を貰いそこなって泣いた人のためにやった」


 下手なジョークを交わしたつもりだが、誰も笑わないのには少し腹がたった。ベビーフェイスの新米騎士はムッとした表情で何か反論しようとしたが、その前に一人の同僚の騎士が騎士団長に、血相を変えて大声で叫んだ。



 「め、女神様がここに来ています!!」


 「なんだと!!すぐにお通ししろ!!」



 こいつらの三文芝居には、絶対に金を払いたくないという光景を見せられて呆然としていたが、団長の一声に包囲網がすぐに解かれた。騎士たちは行儀よく整列し、その中心には緑色の挑発したツインテールの女が立っていた。



 「やあハゲオヤジ。まぬけの面を見に来てやったが、こうもお祭り騒ぎとはね」


 その女の声は、切れのいいナイフのように、冷ややかなものだった。

おれはこいつを知っている。そうだ。このクソッタレが、おれを異世界に呼んだ馬鹿野郎ということを。

 

 それと、おれが気にしている頭のハゲを言われたので、とりあえず女神の近くに来て頭をぶん殴った。


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