第九話 十二星王最強の男
僕が光迅流十五代目当主になってから、光迅流の剣士と手合わせをする事が増えた。
僕は最年少の十六歳で当主になったので、どうもなめられているらしい。
でも剣の修行になるので大歓迎だ。
世界最高議会には皇帝陛下とイルティミナ先生とパラケルトさんが参加するんだけど、参加者は護衛を一人つける事が出来るらしい。
皇帝陛下の護衛はクルトが務めるらしい。
イルティミナ先生の護衛はチェルシーが、パラケルトさんの護衛は僕がする事になった。
世界最高議会が開催されるまで三ヶ月も時間がある。
なのでその間、光迅流道場でセシル、ナギさん、キルハと共に修行をしたり、ジアスやチェルシーと共に冒険者活動をしたりもした。
ジアスはユルゲイト達との戦いで足手まといになった事をとても気にしている。
なのでもっと強くなる為にイルティミナ先生に魔法を教わる事にしたみたいだ。
皆が強くなる為に努力をして時間は流れ、世界最高議会が開かれるまであと一週間になった。
冒険者としてクエストをこなしたおかげで、ジアスはAランク冒険者になったし、セシルは光迅流免許皆伝になった。
キルハは元々Sランク冒険者だったらしいし、チェルシーはイルティミナ先生とガゼット皇国に行ってる間にSランク冒険者に昇級したらしいので、イルティミナ先生とパラケルトさんを除いても、ジアス以外は皆Sランク冒険者という事になる。
戦力としてはまずまずだけど、相手は十二星王級が少なく見ても三人いる。
それに古代人のクローン達も居るし、ドーピング薬エボリュトも持っている。
油断は出来ない。その為にも世界最高議会で一致団結出来ればいいのだが。
世界最高議会開催が一週間前になった事もあり、続々と各国の王や代表が城へと入城し始めている。
十二星王も『槍王』、『闘王』、『断絶王』の三人は来ているらしい。
現在十二星王は弓王カルフェド·イングラムが亡くなったので十一人しか居ない。
イルティミナ先生とパラケルトさんを合わせると、シュライゼムには五人の十二星王が居る事になる。
残る十二星王は六人。
一週間後には十二星王全員が集まると思ったら興奮してきた。
興奮して落ち着かないので、セシル、ジアス、チェルシーを誘って冒険者ギルドへとクエストを見に行く。
冒険者ギルドに入り、クエストボードを確認していると、SSランクのクエストを発見した。
内容はここから馬車を二日程北に走らせた場所にある町トリニーデの近くにある森――トリニーデ森林に上位種のドラゴンが住み着いたとの事。
このクエストを受けて、パラケルトさんに借りた魔導自動車でトリニーデ森林に四人で向かう。
魔導自動車を走らせる事半日でトリニーデの町に着いた。
トリニーデ森林に向かう前に町で聴き込みをする事にした。
上位種のドラゴンは二週間前に森林に住み着いたらしい。
今の所住民に被害は出ていないらしいけど、ドラゴンのせいで森林で狩猟や採取が出来ずに困っているとの事。
あと一時間程前に恐ろしい風貌をした大柄な男がトリニーデ森林へと向かったらしい。
住民を行かないように止めたらしいのだが、制止の声を聞かずに森林へと向かったそうだ。
僕達は急いでトリニーデ森林へと魔導自動車を走らせた。
トリニーデ森林の入口へと着いて、中に入ろうとした時、森林の中から激しい爆炎が昇る。
駆け足で爆炎が昇った場所に向かうと、周囲が炎に包まれる中、絶命した漆黒のドラゴンを踏みつける大柄の男性が居た。
セシル、チェルシー、ジアスは大柄の男性を見た途端に武器を構える。
何で武器を構えるんだろうと思いながら大柄の男性に話しかける。
「あなた一人でドラゴンを倒したんですか?」
「見てわからねぇのか? 俺の他に誰か居るか?」
ニメートル以上は背がありそうな男性は睨みつける様な視線を僕達に向ける。
「それよりもお前達の様なガキが何でここに居る?」
「今しがたあなたが倒したドラゴンを倒しに来たんです」
「···ふん、ガキのくせに危険な事をするんじゃねぇ!!」
男性の叫びにジアスは身体を震わせ、セシルとチェルシーは警戒している。
この男性を怖がっているみたいだ。
三人が何故怖がっているのか不思議に思いながらも話を続ける。
「僕達はこう見えてもSランク冒険者やAランク冒険者なんです」
「ふん、強いのは見て分かる。それでもお前らはガキだ」
「さっきからガキだガキだとうるさい。俺達に喧嘩を売っているのか?」
セシルが何故か喧嘩腰だ。
「喧嘩を売っている? 俺がガキに? 冗談はよせ」
男性はセシルの言葉に笑みを浮かべる。
「くっ、ガキかどうか戦って確かめるか?」
セシルが今にも斬りかからんとしている。
セシルだけじゃなくチェルシーやジアスも戦闘態勢をとっている。何故だ?
「待って下さい。三人とも何で戦おうとしているんですか?」
「何でって、こいつが喧嘩を売ってきたんだぞ!!」
セシルの言葉にチェルシーとジアスも頷いている。
喧嘩を売ってきた? 誰が?
「落ち着いて下さい。この人は僕達を心配しているだけです」
「心配? 俺達をガキ呼ばわりしたあいつの凶悪な笑みを見なかったのか?」
凶悪な笑み? 彼は優しく微笑んだだけだ。
「三人とも冷静になって下さい。すみません、三人が失礼しました」
僕は男性に頭を下げる。
そんな僕を見て男性は驚いている。
「···お前は俺が怖くないのか?」
男性の言葉に首を傾げる。怖い? 誰が?
「あなたみたいな優しそうな人を怖がる必要が何処にあるんです?」
僕は本心を言っただけだが、男性は何がおかしいのか笑う。
「ははっ、俺を見て優しそうと言ったのはお前が初めてだ。ガキ、名前は?」
「僕の名前ですか? 僕はルートヴィヒ。ルートヴィヒ·バンシールです。あなたは?」
「俺か? 俺はヨルファング·ジェスターだ」
ヨルファング·ジェスター!?
その名を聞き、セシル、チェルシー、ジアスは驚きながら警戒を強める。
「あなたがヨルファング·ジェスター?」
僕はこの人がヨルファング·ジェスターだと信じられない。
ヨルファング·ジェスターは極悪非道の人間として有名で十二星王の一人――『修羅王』でもある。
その強さは十二星王最強と言われていて、あまりの強さから悪人にもかかわらず十二星王に選ばれたと世間では言われている。戦えば周囲に害を及ぼすという噂から『拳害』とも呼ばれている。
彼が極悪非道のヨルファング? とてもそうには見えない。
「ふっ、驚いたか? それとも恐怖したか?」
ヨルファングと名乗った男性の言葉に僕は首を横に振る。
「いいえ、あなたがヨルファング·ジェスターだとしたら世間での噂は嘘だったんですね」
僕の言葉を聞いてヨルファングさんは目を丸くさせた後、大きな笑い声をあげる。
「ガハハハッ!! 俺の見た目を見てそう答えた奴は初めてだ!! 気に入ったぞルートヴィヒ!!」
ヨルファングさんは笑顔で僕の背中を叩く。
これが十二星王最強の男――『修羅王』との出会い。
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