第二十四話 激闘の果てに


 皆それぞれの戦いを始める中、僕とステラは弓王と対峙している。


 ステラのエンチャントで光迅化した僕は、瞬歩で弓王に近付こうとするけど、弓王が放つ魔力でできた矢を避けるのが精一杯で中々近付けない。


 本来遠距離を得意としている弓王にとって、広いとはいえ壁に隔たれた空間での戦いは不利の筈だ。


 なのに弓王の放つ矢はまるで追尾しているかの様に僕を捉えている。


 僕が近付くのに苦戦していると、ステラが弓王に向かって無数の炎弾を放ち援護してくれる。


 弓王はステラの炎弾を矢を放って相殺させるが、その隙に僕は弓王に肉薄する。


 最速で斬撃を放つ。


 だけど弓王はそれを回避し、零距離で矢を放つ。


 なんとかぎりぎりで回避に成功するけど、矢が頬を掠めたのか頬から血が流れる。


 「弓を使うからといって近距離が苦手だとは思わない事だ」


 確かに近距離でなら勝てると踏んでいた自分がいた。


 でも光迅化した僕の攻撃を避け、光速で動く僕を捉えて矢を放つ弓王の弓の腕前も凄いが、一番凄いのは目だ。


 「あなたは魔眼持ちではないんですよね?」


 「ああ。だが、俺を知る人々は、俺の目を鷹の目と呼んでいる」


 鷹の目か。正に弓王の目に相応しい呼称だ。


 これに勝つにはラライド戦で使ったあれしかない。


 「ステラ!! レヴァンティンのエンチャントをあと二回僕にかけて!!」


 「···わかった!!」


 一瞬迷ったステラだけど、そうでもしないと弓王に勝てない事が分かったのかレヴァンティンのエンチャントをかけてくれる。


 これでレヴァンティンが三重に重ねがけされた。


 僕の身体から放たれる白い光のオーラが格段に強くなる。


 この状態に名を付けるなら。


 「レヴァンティンサードブースト」


 そう名付けて僕は弓王に向かって駆ける。


 身体が軋み、目や耳、鼻、口から血が流れ出す。


 この状態は十秒程しか保たない。


 だから十秒で決める!!


 弓王は危険を察知したのか数え切れない程の矢を放つ。


 だけど僕は矢を斬りながら弓王に到達する為の最短距離を突き進む。


 斬りきれなかった矢が僕の身体を掠め傷を作っていくけど構わない。


 この一撃が届きさえすれば!!


 「光迅流六ノ型瞬光っ!!」


 白きオーラを纏った光速の突きが弓王の弓を壊し、弓王を捉えようとしたその時、弓王の身体から赤いオーラが立ち昇る。


 「イングラム流弓術奥義弓体射弾!!」


 弓王は自分の身体を弓に見立てて赤き魔力の塊を僕の瞬光にぶつける。


 二つの力のぶつかりにより大気が震え、僕は後方へと弾き飛ばされた。


 弓王はというと、着ていた服はボロボロになり、弓も失った。


 だが無傷。


 それに比べて僕はレヴァンティンサードブーストの影響で身体はボロボロ。


 すぐに回復魔法をかけて立ち上がるが、目の前には弓王が。


 弓王の魔力の籠もった拳を鳩尾に受けて血反吐を吐きながらその場に崩れ落ちる。


 「諸刃の剣の一撃、見事だった。だが、十二星王を舐めない事だ」


 「お兄ちゃん!!」


 ステラが僕を助けようと弓王にクリムゾンレーザーを放つ。


 弓王は僕から距離をとる。


 ステラも魔力切れが近い筈。


 僕はなけなしの魔力で回復魔法を自分にかける。


 身体の軋みはとれないが、だいぶ回復出来た。


 だが、魔力はもうない。


 魔力回復薬を取り出して飲む暇を弓王は与えてくれないだろう。


 だが、弓王も先程の一撃で魔力を殆ど使ったのか、少量の魔力を拳に纏わせるだけ。


 僕は剣を構え、弓王を睨む。


 「何故あなた程の人がユルゲイトに手を貸すんですか?」


 「···我が母国ガゼット皇国を大飢饉が襲った時に助けられた恩がある。そのおかげで多くの民が救われた」


 「だからステラを殺してもいいと?」


 「恨むなら恨め。だがこの戦いも終わりだ」


 カルフェドの視線の先を見つめるとユルゲイトが造った古代人のクローンの一人がジアスの首を掴んでいる。


 その光景を見てナギさんとセシルは傭兵王と狂牙と戦うのを止める。


 「ユルゲイト、貴様!!」


 ユルゲイトと激戦を繰り広げていたパラケルトさんも浮かべていた魔法陣を消してユルゲイトを睨む。


 「おいおい、そんなに睨まないでくれよ。どの道戦っていれば僕達が勝っていた。それを早めただけさ」


 ユルゲイトは気味悪い笑みを浮かべながらステラを見る。


 「この状況が分かるなら扉を開けてほしいんだが」


 ステラは俯き暫し悩んだ後、扉の前の台座に向けて歩き出す。


 「ステラ!! 駄目だ!! 僕の事は気にしなくていい。逃げぐっ!?」


 ジアスの叫びはクローンの女性が首を締めた事によって止められる。


 「ジアス!! わかった。わかったから止めて!!」


 ステラの叫びでジアスを締めつけていた手の力が緩む。


 「げほっがほっ。だ、駄目だステラ。それじゃあステラが!!」


 ジアスが涙目になりながらステラの歩みを止めようと叫ぶがステラは首を横に振る。


 「いいのよ。それに私の魂は強いの。古代人だか神だか知らないけど負けるつもりはないわ」


 そう強がりながらステラは台座に触る。


 「ステラ駄目だ。止めるんだ!!」


 僕は悩んだ結果、ステラとジアスを天秤にかけて、ステラを救う事にした。


 だけど弓王が立ちふさがりステラの元へと行けない。


 「そこをどけ!! カルフェド·イングラム!!」


 「そう言われて通す訳がないだろう」


 カルフェドに斬りかかるがカルフェドは剣の腹を叩いて僕の斬撃をいなす。


 その間にも台座が光り始めてその光が扉へと向かう。


 「ステラ!! 誰の事も気にしなくていい!! 頼むから逃げてくれ!!」




 僕の悲痛な叫びを聞いて、ステラは申し訳なさそうに微笑む。


 扉が開き、大きな黒き光の塊が扉から出てくる。


 その光景を見てユルゲイトは歓喜している。


 な、何だあれは!? あれが古代人の神の魂!?


 あんな物がステラの身体に入ったらステラは消えてしまう。


 「どけ!! 弓王!!」


 「な、何っ!?」


 僕は気付けば弓王を斬り倒し、ステラへと向かっていた。


 だがあと少しの所で黒き光の塊がステラの身体へと入っていった。


 「···お兄ちゃん、ごめんね。愛してる」


 ステラの身体が傾き、慌てて抱き締める。


 「ステラ? ステラ? ステラ!!」


 僕が必死に呼びかけているとステラの目が静かに開く。


 「ステラ!! 良かっ···た?」


 目覚めたステラは邪悪な笑みを浮かべたと同時に魔力を纏わせた手刀で僕の胸を刺し貫く。


 「ごほっ!! ス、ステラじゃないな。お、お前が古代人の神?」


 「······」


 ステラの顔で邪悪な笑みを浮かべる者は無言で僕の胸から手を引き抜く。


 僕の身体は地に沈む。


 「「ルートヴィヒ!?」」


 セシルやナギさんが僕の元へと駆けつけようとしているのが端に見えながら僕の意識は途絶えた。

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