第二十三話 鍵にして器


 扉を開けてもらいたい?


 ダンジョンコアが言っていた古の扉とはあれの事なのか?


 「ユルゲイト、その扉を開けるとどうなるのね?」


 パラちゃんが杖を構えながらユルゲイトへと質問する。


 「ふふっ、パラケルト久しぶりだね。君が賢者の塔から出てくるとは驚きだ」


 驚いた様子など微塵もないユルゲイトは、不気味な笑みのままパラちゃんに視線を向ける。


 「お前と無駄話をするつもりはないのね。さっさっと質問に答えるのね!!」


 「ふふっ、僕は機嫌がいいからね。質問に答えよう。ここには、ある古代人の魂が封じられている。その古代人は遥か昔、まだ古代人達がこの世界に居た頃に、神として崇められていた存在らしい」


 「神? お前はそんな存在の魂を開放してどうしたいのね?」


 「どう? 僕は只、古代人達に裏切られて封じられた彼女が可哀想で仕方ないだけさ。だからこの扉を開ける鍵となる古代人のコピーを造った。この遺跡の隠し部屋で古代人のミイラを見つけてね。大事そうに棺に保管されていたから恐らく封印された彼女の身体だと僕は分析した。コピーを沢山造ったんだけど、ダンジョンコアが古代人と認識するコピーは中々造れなくてね。だけど、十年程前にようやく成功作が造れた」


 「それがステラなのね?」


 「そう、ステラはこの扉を開ける為に僕が造った鍵だ」


 鍵。そんな事の為に私の身体は造られたのか。


 「まだ疑問はあるのね。何故古代人はダンジョンを作り、その神として崇められていた者を封じたのね?」


 「いい質問だ。ダンジョンは神である彼女が僕達現代人の為に作った修練の場所さ。他の古代人と戦わせる為のね」


 「古代人と戦わせる? 何の為に?」


 「古代人が残したいくつもの石版を解析してわかったんだけど、現代人は封じられた彼女が造り出した新人類らしい。何故新人類を古代人と戦わそうとしたのかはわからない。分からないけど、彼女を封じた古代人達と新人類は戦い、結果として古代人達が勝った」


 古代人達が勝った? それなら何で古代人は滅びて、この世界は現代人達ばかりになったの?


 私の疑問が分かっているのかユルゲイトが再び喋りだす。


 「何故古代人が滅びて現代人が溢れているのか。それは単純な話さ。古代人達は流行り病によって死に絶え、古代人との戦いに敗れた現代人の生き残った子孫の方が繁栄した。それだけの話さ」


 「どうして現代人だけが生き残ったの?」


 「さぁ、どうしてだろうね? 僕の推測だけど、現代人の生き残りは長い間地底に隠れていたんじゃないかな。だから病気からも逃れる事が出来たのかも? もしくは古代人にだけ効いた病気とかね。だけどそんな事はどうでもいい。僕は封じられた僕らの生みの親である彼女を救いたい。それだけさ」


 「それで私を鍵として造ったの?」


 私の質問にユルゲイトは首を横に振る。


 「君の役割はそれだけじゃないさ。魂だけの存在となった彼女には身体が必要だろう? 君は彼女の魂を収める為の器さ」


 「···それじゃあ私はどうなるの?」


 「さぁ? おそらく君の魂は消えるんじゃないのかな?」


 どうでもよさそうに答えるユルゲイトを睨みながら今まで黙っていたルートヴィヒが口を開く。


 「ステラが消える? ふざけないで下さい!! そんな事は僕がさせない!!」


 ルートヴィヒが剣を構えると、セシルやナギさん、ジアスも武器を構える。


 「知りたい事は知れたし、こんな所はさっさっとおさらばするのね!!」


 パラちゃんの言葉で私達は来た道を戻ろうとしたけど、私と同じ顔をした女性達が道を塞いでいる。


 「逃がす訳がないだろう? その為に揃えた戦力だ」


 ユルゲイトの言葉で、傭兵王バーン·マグナス、狂牙キルハ·ブランドン、弓王カルフェド·イングラムが動き出す。


 「悪いな。金をたんまりと貰っているんでね」


 「久しぶりだな、ルートヴィヒ!! お前と再び戦える日を待っていたぜ!!」


 「···参る」


 三者三様に武器を構える。


 「くっ、ユルゲイトの相手は私がするのね!! 傭兵王はナギちゃんが。大剣使いの女はセシルが。弓王はルートヴィヒとステラ氏が。ジアスは私の後ろにいるのね!!」


 パラちゃんに言われた通りの相手と私達は対峙する。


 「おやおや、戦闘が得意ではない君が僕と戦うのか?」


 「それはお前も同じなのねユルゲイト!!」


 パラちゃんとユルゲイトはお互いに魔法陣を描く。



 「俺の相手は小娘一人か。こりゃあ楽勝だな」


 「その油断斬らせてもらいます!!」


 傭兵王の双剣とナギさんの刀がぶつかる。



 「俺が求めているのはルートヴィヒただ一人。お前じゃ力不足だ!! そこをどけぇ!!」


  右目に眼帯をし、右腕を機械仕掛けの義手に変えている狂牙が吠える。


 「お前こそルートヴィヒの相手には力不足だ」


 雷迅化したセシルが狂牙に向かって駆ける。



 「······」


 弓王カルフェド·イングラムは無言で只ならぬ殺気を放つ。


 私はその殺気に当てられて身体を震わせる。


 そんな私の手をルートヴィヒが握ってくれる。


 「大丈夫。何があってもステラは僕が守るから」


 そうだ、私にはルートヴィヒが居る。


 ルートヴィヒが一緒ならどんな困難も突破出来る!!


 ルートヴィヒのおかげで、私の身体の震えは止まった。


 あとは、ルートヴィヒと共に目の前の敵を倒すだけ。


 ルートヴィヒにレヴァンテインのエンチャントをかけて光迅化させる。


 「行くよ、ステラ!!」


 「うん、お兄ちゃん!!」


 こうして私の命運を賭けた戦いが始まった。

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