第十八話 弟
S級ダンジョンの二十階層で野営をした翌日、ジアスが作ってくれた麦粥を食べた後、ダンジョン攻略を再開した。
セシルやステラは麦粥が美味し過ぎて何回もおかわりしていたせいか、お腹が苦しいみたいで、お腹を手で擦りながら歩いている。
お腹が苦しくてもモンスターは待ってくれない。
苦しそうにしながらもセシルは剣を振るい、ステラは魔法を放つ。気のせいかいつもより動きが遅い気がする。
僕とナギさんはそんな二人を苦笑しながらフォローする。
三十階層に着く頃には、セシルとステラは苦しさから解放されたのか元気になった。
ダンジョンを進んでいる間、ジアスはダンジョンの構造を細かく紙に書いていた。
真面目だなぁと感心しながらその様子を見ていた。
三十階層の扉を開けると、紫色の大蛇が待ち構えていた。
大蛇は僕達を見つけると、身体をニョロニョロと動かし接近してくる。
「皆さん毒霧が放たれます!! 吸い込まないように注意を!!」
魔眼を解放したナギさんが叫んだ数秒後に大蛇が毒霧を吐いた。
皆、吸い込まないように注意しながら大蛇と戦うけど、いくら広い部屋とはいえ、密閉された空間である事は変わりない。
息を止める事を維持できずに僕らは毒霧を吸い込んでしまった。
だけど、ジアスが瞬時に回復魔法で解毒をしてくれたおかげで、僕らは倒れずに大蛇を仕留める事が出来た。
光の粒子となって消えた大蛇が残した物は紫色の水晶玉。
パラケルトさんの調べによると、魔力をこめる事によって毒霧が発生する魔道具みたいだ。
物騒な物なのでアイテム袋にずっとしまっておく事になると思う。
三十階層を突破した僕らは、先へと進む。
「さっきはありがとうございました。ジアスが即座に回復魔法をかけてくれたおかげで無事に大蛇を倒せました」
道中、三十階層での戦いのお礼をジアスに言うと、表情を暗くさせ、首を横に振る。
「ううん。僕は回復魔法以外は役に立っていない。ここまで助けてもらっているのは僕の方だ。だからお礼を言われる資格なんてない」
「そんな事はないですよ。ジアスの料理を凄く美味しいですし、ジアスの考古学者としての知識はこの先きっと役に立ちます。だからそんなに自分を卑下しないで下さい」
「···そうかな? 僕は役に立てる?」
「ええ。今でも十分に助けられていますが、僕らにはジアスが必要です」
「···そっか。ルートヴィヒさんありがとう。元気が出たよ」
頬を掻きながらジアスは僕に頭を下げる。
「そうですか。なら良かったです。ところでジアスは何故料理が上手いのですか?」
「それは、僕の育ての親である祖父が料理を作るのが下手だったから、自然と料理が作れるようになっていたんだ。でも祖父は考古学の知識は凄かったんだ」
お祖父さんの事を話し始めてジアスのテンションが上がった。
「ジアスはお祖父さんの事が好きなんですね」
「うん、僕の自慢の祖父さ!」
誇らしげにお祖父さんの事を語るジアスに先程の暗さは微塵もない。
その後もお祖父さんの話で盛り上がった。
考古学者になれたのもお祖父さんの教えのおかげらしい。
お祖父さんの事を嬉しそうに語るジアスを見て僕は安心した。
ジアスが僕達に壁の様なものを作っている気がしたのだ。
でも今は少し仲良くなれた気がする。
この調子でもっと仲良くなりたい。
そう思いながら僕はジアスの話を聞く。
僕達の歩みは進み、四十階層に着いた。
扉の前で一息ついた後、扉を開けてボスモンスターと対峙する。
四十階層のボスモンスターは、巨体な黒い山羊だった。
僕とセシル、ナギさんは、山羊が気付く前に仕留めようと駆けるけど、山羊は僕達に気付き、雷を放つ。
雷は部屋中に放たれ、僕達は回避する。
ステラとジアスは、ステラが展開した聖属性最上級防御魔法イージスで守られているので問題ない。
ナギさんが魔眼を開放して雷が落ちる場所を予知して、回避しながら山羊に肉薄する。
山羊は口からも雷撃を放つが、ナギさんは雷撃ごと山羊を斬る。
致命傷には至らなかったけど、山羊の攻撃が止んだ今がチャンス。
僕とセシルは瞬歩で山羊に接近し、コンビネーション技を放つ。
「「光迅流三ノ型燐閃応用技、双燐閃!!」」
山羊の首が飛び、地面に落ちると同時に胴体も地面に倒れた。
光の粒子となって消える山羊を見て、セシルと拳を軽くぶつけ勝利を喜ぶ。
そこにジアスが走ってくる。
「ルートヴィヒさんもセシルさんも怪我はない?」
「ええ、大丈夫です」
「ああ、大丈夫だ。心配ありがとな」
セシルがジアスの頭を少し乱暴に撫でる。
「ち、ちょっと止めてよ」
そう言いながらもジアスは嬉しそうだ。
セシルとも打ち解け始めたみたいで嬉しい。
山羊が落とした角を回収していると、ジアスが真剣な表情で呟く。
「ダンジョンモンスターのドロップアイテムはどういう理屈で生み出されているんだろう?」
その言葉に僕も同意する。
「ダンジョンモンスターが落とす物は素材の時もあれば、魔道具の時もありますからね。確かに謎です」
二人で思案していると、ステラが僕達の背中を叩く。
「お兄ちゃんとジアス。不思議なのはわかるけど、先へ進むよ」
「けほっ、ごめんごめん。行きましょうかジアス」
「う、うん、行こうかルゥ兄」
ジアスにルゥ兄と呼ばれたので視線を向けると、恥ずかしそうにしている。
「ス、ステラがお兄ちゃんと呼んでるのが羨ましくなったんだ。···駄目かな?」
好意で呼んでくれているのだ。駄目な筈がない。
「駄目じゃないですよ。これからもルゥ兄と呼んでくれると嬉しいです」
「それじゃあ俺の事は今度からセシル兄と呼んでくれ」
セシルが笑顔で会話に参加する。
「わ、わかったよ。ルゥ兄、セシル兄、先へ進もう」
ジアスは恥ずかしいのか早歩きで先へと進む。
照れながら僕達を兄と呼ぶジアスが可愛くてセシルと一緒に微笑む。
まるで弟ができたみたいで嬉しい。
それはセシルも同じみたいで、ご機嫌な様子で歩いている。
何故かステラとパラケルトさんも嬉しそうに僕らを見つめている。
どうしたんだろう?
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