第十話 同郷の友


 賢者の塔に戻って来た僕達は、ステラのダンジョンマスターの能力についてパラケルトの考察を聴くことにした。


 「私やイルちゃんは数百年生きているけど、私達が物心ついた頃からダンジョンはあるのね。私は考古学者じゃないから詳しい事は分からないけど、恐らくダンジョンは遥か昔の人間に作られた物なのね」


 「遥か昔の人間···。しいて言うなら古代人ですか?」


 僕の名付けに笑顔で頷くパラケルトさん。


 「うん、良い名称なのね。古代人によって作られたダンジョンの管理者は当然古代人なのね。だからダンジョンマスターとは、本来古代人の事を指すんだと思うのね」


 パラケルトの考えにステラは首を傾げる。


 「でもダンジョンコアは私の事をダンジョンマスターだと呼んだわよ」


 「そうなのね。だから恐らくステラ氏は、古代人のクローンの可能性が高いのね。ユルゲイトは考古学にも見識を持っていたのね。何の目的で古代人のクローンを作ったかはわからないけど、ステラ氏はユルゲイトにとって相当重要な存在なのは間違いないのね」


 パラケルトの言葉でこのままダンジョンコアを集めていいのか僕は不安になった。


 「···パラケルトさん。このままダンジョンコアを集めるのはまずいのでは?」


 「確かにユルゲイトの言う通りにダンジョンコアを集めるのは危険なのね。だけど、集めるのを止めたとしてもいずれユルゲイトは必ずステラ氏を攫いに来るのね。だったらそれまでに少しでもステラ氏の事を知っていた方が強みになるのね」


 ···なるほど。確かにユルゲイトがステラを狙っている以上、ステラが何故狙われているのかは知っておきたい。


 「それにダンジョンコアの力はダンジョン限定だとはいえ今の時代では作るのが不可能な程のずば抜けたテクノロジーなのね。恐らく古代人は私達よりも高度な文明の中で生きていたのね。う〜ん、とても興味深いのね!!」


 「それには同意べさ!!」


 パラケルトさんとイルティミナ先生は目をキラキラと輝かせてステラを見ている。


 「私はそんな高度な文明で作られたダンジョンコアを吸収したステラ氏が大丈夫なのか心配で心配で仕方ないのね。念の為調べておきたい。だから身体を見せて欲しいのね」


 パラケルトさんは手を合わせて拝む様にステラにお願いしている。


 ステラは断るだろうと思っていたけど、意外にも了承した。


 喜びながらパラケルトさんは身体を調べるのは二人きりにしてほしいと僕達を部屋から追い出した。


 イルティミナ先生も一緒に調べたかったのか名残惜しそうに扉を見つめる。


 う〜ん、二人きりにして良かったのかな? 少し心配だ。



        ◆◆◆



 ルートヴィヒ達が部屋から居なくなり、パラケルトと二人きりになった。


 パラケルトは指を動かしながら手を私の服に伸ばそうとする。


 「身体を見るふりはもういいわよ。私と二人きりで喋りたかっただけでしょ?」


 私の言葉に首を横に振るパラケルト。


 「いやいや、身体を調べたいのも本当なのね」


 私の服を脱がそうとするパラケルトの手を払い、パラケルトを睨む。


 「そんなのはいいからさっさっと本題に入って!!」


 私はパラケルトを警戒する。何故ならば···。


 「そんなに警戒しなくてもいいのね。ただ同じ境遇の人間と話したかっただけなのね」


 「···そう、やっぱりあなたも転生者なのね」


 「そうなのね。そしてたぶん同じ日本人なのね」


 その言葉に私は目を丸くする。


 「同じ世界の人間かもしれないとは思っていたけど、あなたも日本人なの!?」


 「うん、日本人だったのね。でも三百年以上昔の話なのね。ステラ氏は何年頃の日本人なのね?」


 「私は二〇二一年の日本に居たわ」


 私の言葉にパラケルトも目を丸くする。


 「私も二〇二一年の日本に居たのね!!」


 なんと、同郷でしかも同じ時代に生きていたとは!!


 私は警戒しながらも同じ時代の日本で生きていた事に親近感を覚え、色々と質問した。


 何故のこの世界に転生したのか?


 何故同じ時代の日本で生きていたのに転生に時間差が生まれたのか?


 何故パラケルトやイルティミナは何百年も生きているのか?


 ほとんどの質問に答える事がパラケルトには出来なかった。


 パラケルトも転生については何も分かっていないらしい。


 ただ、イルティミナやパラケルトが何故長生きなのかは答えてくれた。


 答えは簡単。魔力が多い人間程この世界では歳をとり難いらしい。


 十二星王程の人間になると皆途方もない魔力を持っている為若々しい姿で数百年生きている者も少なくないらしい。


 パラケルト曰く、私やチェルシーも魔力が多いので少なくとも二百年以上は生きられるとの事。


 パラケルトと話している内に警戒心はなくなり、いつの間にか数十年来の友みたいに仲良くなった。


 仲良くなれたのはパラケルトが日本で死んだ年齢が私が死んだ年齢と近かった事もあるのだろう。


 「で、パラちゃん。私はこれからもダンジョンコアを集めてもいいのかな?」


 「う〜ん、さっきも言った通り、どうせ狙われるならダンジョンコアを集めてステラ氏の事が少しでも分かっていた方がいいのね。それにステラ氏は自分の事を知りたいと思ってるのね」


 「うん、知りたい。私が何故作られたのか、何で狙われているのか知りたい」


 私の言葉にパラちゃんは優しく笑いながら頷く。


 「うんうん。それならこのパラケルト·スミスもついて行って力になるのね!」


 「本当!? パラちゃんが来てくれるなら心強いわ!!」


 「うんうん、頼りするといいのね」



 こうして錬金王パラケルト·スミスが仲間になった。

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