第十話 VS連合軍④
――イルティミナ視点。
今、私の目の前にはニヤニヤと笑う一人の男が居る。
男の名はバーン·マグナス。
「やっぱ強いな魔導女王。あんたは倒せそうにない」
そう言いながらもバーンには余裕がある。
「その余裕面、気に食わないべさ。何を狙っているべさ?」
「別に何も狙ってないさ。ただあんた達の時間稼ぎが哀れに見えてついニヤけちまった。あんたらの仲間の潜入作戦ならラライドが看破しているぜ。俺ん所の腕利き二人をラライドの護衛と門の護衛につけてある。更に王城にも沢山のドーピング兵士達が待ち構えているし、国王は近衛騎士団長と宮廷魔導師長に守られている。残念だがお仲間達は終わりだ」
「ふふっ」
バーンの言葉につい笑ってしまう。
「何が可笑しい?」
「いやいや、あたし達が送り込んだ少数精鋭を甘く見ているからつい笑ってしまったべさ。断言するべさ。私達の仲間が間違いなく勝つべさ」
あたしの態度を見て、ニヤニヤしていたバーンの目つきが獰猛なものに変わる。
「ちっ!! あんた以外に面倒な奴なんてメルト·オルディアぐらいだと思ってたが、あんたにそこまで言わせる奴らが複数居るとはな。ぬかったぜ。仲間を死地に置いとくのは御免なんでね。悪いがここは退かせてもらうぜ!!」
部下の所へ行こうとしているのだろうが、そうはさせない。
私とバーンの周囲に魔法で風の牢獄を作る。
「行かせる訳ないべさ」
「てめぇ!!」
怒りながら双剣を構え向かってくる。
それを防御魔法で防ぐ。
「お前にはしばらくあたしに付き合ってもらうべさ」
◆◆◆
――チェルシー視点。
王城の戦いは一方的なものになっていた。
近衛騎士団長ドレイグはメルトさんの剣さばきについていけずに甲冑ごと斬られ全身血塗れになって膝をついている。
僕とウリスさんが相手をしている宮廷魔導師長レギヒルは僕達の相手を出来る実力を持っていなかった。
あっという間にウリスさんの闇魔法の影縛りで拘束した。
「こんな小娘共が無詠唱に最上級魔法を使うじゃと!? そんなバカな!?」
拘束されながらもぶつぶつと喋っている。
僕達は国王を拘束しようと影縛りの魔法をかけようとするけど、ドレイグが剣で魔法を切り伏せる。
全身から血を流し、立っているのもやっとの筈なのに、ドレイグの目には未だ闘志が漲っている。
「国王陛下には手出しさせぬっ!! かくなる上は!!」
ドレイグは懐から紫色の薬を取り出し飲み干す。
見る見るうちにドレイグの目は赤くなり、肌は赤黒く変色する。
「例の薬か。愚かな事を」
ドーピングしたドレイグをメルトさんは憐れむ。
「陛下の為なら道理も捨てるわ!!」
身体能力が向上したドレイグがメルトさんに剣を振りかぶるけど、その剣がメルトさんに当たる事はなかった。
いつの間にかメルトさんはドレイグの後ろで剣を収めている。
「光迅流四ノ型光雨」
「ぐはぁっ!?」
ドレイグは全身から血飛沫をあげ、口から吐血して倒れる。
「···へ、陛下、申し訳あ···」
ドレイグは気絶した。
これで国王を守る者は居なくなった。
闇魔法で暴れる国王を拘束し、王城での戦いは終わった。
◆◆◆
ルートヴィヒはアレクセイという槍使いと、セシルはボルゴという大槌を持った巨漢と戦っている。
「光迅流三ノ型応用技、燐光閃!!」
「神影無槍流月華斬」
ルートヴィヒの剣撃とアレクセイの槍撃が火花を散らせながらぶつかる。
「ふぃ〜、やるねぇ。おいちゃん、これでもトップ傭兵団の副団長なんだけどなぁ。世界は広いってやつか」
「僕も驚きです。レヴァンティンでエンチャントした僕とまともに打ち合えるなんて」
「え、まともに? それは違うさ。おいちゃんの腕はさっきの一撃を受けてまだ痺れてるもん」
そう言いながらもまだアレクセイは余裕そうだ。
セシルはボルゴと打ち合っているのだけれど、ボルゴは分厚い重鎧を纏っているので、鎧で斬撃が止められている。
「くっ、堅いな。これならどうだ!! 光迅流二ノ型激雷迅!!」
紫電を纏った一撃は見事にボルゴの胴を捉えた筈だった。
なのにボルゴはあまりダメージを受けていない様に見える。
「くらえ、うらぁぁぁあ!!」
ボルゴの大槌がセシルの居た場所に炸裂する。
だがセシルは余裕で避けた。
セシルは相手の攻撃をもらう事はないようだけど、セシルの攻撃もボルゴには通用していない。
膠着状態が続いている。
なら私が打開しないと。
向かって来た敵兵士達を魔法で吹き飛ばしながら、門を破壊する為の魔法を練る。
門の前にはあのボルゴという巨漢が陣取っている。
最上級魔法を使いたい所だけど、こんな密集した場所で使ったらルートヴィヒやセシルも巻き込んでしまう。
なら、火属性と光属性上級複合魔法クリムゾンレーザーだ。くらえ!!
「セシルどいて!!」
セシルは私の声で横に跳ぶ。
私が放った紅き光線がボルゴの体ごと門を撃ち抜く。
ボルゴは何が起こったのか分からないのか自分のお腹に目をやる。
ボルゴのお腹には大きく穴が空いていた。
「ぐふっ!? おらのお腹に穴? どうじで?」
ボルゴの体は前に倒れる。
クリムゾンレーザーで貫通した門も開き、外からヨルバウム帝国兵達がなだれ込む。
同時に王城の扉が開き、国王を拘束したメルトさん、ウリス先輩、チェルシーが出てきた。
「ちっ、ボルゴの野郎やられやがった!! それに国王も拘束されちまったし、ここいらが退き時ですかねラライドの旦那?」
「···そうですね。致し方ないでしょう。この場は退きましょう」
「よぉーし、お前ら撤退するぞ!! 退け退け退けぇぇえっ!!」
アレクセイの大声で敵兵士達が退いていく。
「ということでおいちゃん達は退かせてもらうわ。またな少年」
アレクセイはラライドを守りながら撤退していく。
私達は王都ナクルムの住民に被害を与えずに王都ナクルムを制圧した。
◆◆◆
――イルティミナ視点。
メルト達は見事作戦を成功させたみたいだ。敵兵士達が撤退していく。あらかじめ退路は確保していたみたいだ。やはり名軍師ラライドは抜け目がない。
作戦が成功した今時間稼ぎをする必要もない。風の牢獄を解除する。
「おいおい、俺を逃してもいいのか?」
「おまえを倒すにはここは狭すぎるべさ。本気でお前と戦ったら王都ナクルムがどうなるかはわかるべさ」
「確かにな。俺とあんたが戦ったら王都なんて簡単に消えちまうだろうな。気に食わねぇが、ここは撤退させてもらう」
バーンは不満げな顔をしながら防壁から飛び降り去っていった。
この戦いは一応私達の勝利だ。
だけど、敵の司令官であるラライドはこの場で倒しておきたかった。
防壁から下を眺めると司令官らしき姿はない。逃げられたのだろう。
これが後々の戦いに響かなければいいのだが。
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