第四話 海上戦②


 チェスタの港からヨルバウム帝国軍船団が再び戦場へと向かう。


 海は荒れることもなく順調に進み、三日かけて戦いのあった海域に戻って来た。


 敵船団の姿はない。残しておいた味方の船から情報を聴き出すと、時折、敵の偵察船が一隻こちらを偵察していたとの事。


 間違いなく来る。


 私は船の自室で身体を震わせながらその時を待つ。


 私の横にはルートヴィヒが居て震える私の手を握っていてくれた。


 少し震えが収まった。もう決意したのだ。後戻りはしない。


 自分を鼓舞していると、船全体に司令官の声が拡声器で響く。


 「敵船団確認!! 各自戦闘準備されたし!!」


 杖を持ってすぐさま甲板へと出る。


 遠くの方にガゼット皇国の船団が見えた。


 見えたと思ったら黒い矢が雨の様に降ってきた。


 イルティミナが手を空に向けてかざし、聖属性最上級防御魔法アイギスを味方船団を包むように展開して黒い矢の雨を防ぐ。


 まだ遠くだというのに範囲攻撃が出来た弓王も凄いけど、船団を包める程のアイギスを展開出来たイルティミナも凄い。二人とも別次元だ。


 イルティミナは空を飛び敵船団へと向かっていく。弓王のもとへ行ったのだろう。


 敵船団が段々と近づいてきた。


 私は杖を構える。深呼吸をして敵船団を見つめる。大丈夫、やれる。


 敵船団の数は補充したのか六十隻に増えている。


それでもこちらの数が圧倒的に多い。


 敵船団と味方船団の魔法の撃ち合いが始まった。


 作戦は前回と同じで敵の遠距離攻撃を魔術士達で防ぎ、船を接近させて白兵戦へと持ち込む。


 味方の被害を最小限にして敵船団に近づくには、やはり敵に大きな隙を作る必要がある。


 敵の攻撃を防御魔法で防ぎながら、私は攻撃魔法を放つ覚悟する。


 だが火属性最上級魔法プロミネンスはここでは使えない。使えば水蒸気爆発を起こして味方にも被害が出る可能性があるからだ。


 なら使えるのはあの魔法しかない。


 チェルシーに目を向けると同じ考えだったのか、私を見つめて頷く。


 私とチェルシーは杖に膨大な魔力を溜めていく。


 放つは聖属性最上級魔法。


 溜めに溜めまくった魔力を開放する。


 「「レヴァンティン!!」」


 チェルシーと同時に発動し、上空に巨大な光の剣が二振り顕現する。


 二振りの巨大な光剣は敵船団に向かって落ちていく。


 敵船団は防御魔法を多重に展開するけど、光の大剣はぶち破っていく。


 防御魔法は意味をなさずに二振りの光の大剣は敵船団に衝突した。


 衝突した事による衝撃波がこちらまで届いた。


 敵船団の被害は甚大だ。二十隻程の船が沈んだ。


 敵の攻撃が止んだ。


 今がチャンスとヨルバウム帝国軍船団は敵船団へと接近する。


 敵船と味方の船が接触しそうな距離まで近づくと、梯子をかけて敵船へと味方の兵士が乗り込んでいく。


 味方の兵士が乗り込んでいく間も、私とチェルシーは後方の敵船に魔法を放ち援護をする。


 だけど私の手は震えている。先程のレヴァンティンで多くの敵兵が死んだ筈だ。


 そう、私は初めて自分の意志で人を殺したのだ。


 吐き気が催しながらも敵船への攻撃を緩めない。


 ルートヴィヒや味方の兵士が少しでも動きやすくなる為に攻撃をする。


 味方の被害を少しでも少なくする。それが今の私に出来る事だ。




        ◆◆◆



 チェルシーとステラが最上級魔法で隙を作ってくれた。


 その隙を突いて敵船に乗り込む事が出来た。


 ステラの事が心配だけど、今は目の前の敵に集中する。


 おそらくだけど、彼女とはまた戦う事になる。だからそれまで魔力を温存する為に、魔法を使わずに敵兵と戦っている。


 やはり紫色の薬を使っているみたいで、身体能力が普通の人間と違う。


 だけど薬の影響のせいか、敵兵士達は非常に好戦的で隙がある。


 隙を突いて敵兵を斬り殺していく。やはり人を殺すのは慣れない。いや、慣れない方がいいと僕は思う。慣れてしまったら人としての何かが壊れる気がする。


 今乗っている敵船の敵兵を殺し尽くしたので、別の敵船へと乗移ろうとしたら上空から殺気が。


 横に飛び、上空から振り下ろされた大剣の一撃を回避する。


 「よぉ〜、また会えたなルートヴィヒ」


 嬉しそうに犬歯を見せて笑うキルハ。


 やはり彼女と戦う事になった。


 前回の戦いで彼女にセイクリッドレイでエンチャントしてなった光迅化が通用しない事は分かった。


 ならその上をいく。出し惜しみは無しだ。


 この魔法は膨大な魔力を消費する。魔力を身体中に巡らせ詠唱する。


 「エンチャント、レヴァンティン!!」


 イルティミナ先生の教えで僕が唯一使えるようになった最上級魔法を剣と身体にエンチャントした。


 身体中から力が漲る。


 「おいおい、なんだそれは? 前回のよりも強そうじゃねぇか!!」


 嬉しそうに大剣を振るってくるキルハ。


 でも遅い。躱してキルハの後ろに回り、剣を振り下ろす。


 「くっ!? 速すぎる!! てめぇ、こないだは全力じゃなかったな!!」


 なんとか僕の斬撃を防いだキルハ。やはり凄まじい反射神経をしている。


 だがこれならどうだ?


 「光迅流伍ノ型散迅華応用技、散迅光華!!」


 光の如き散撃をキルハは躱しきれずに身体中から血を流す。


 しかし浅い。後方へと瞬時に飛んで威力を殺したのだ。


 「ははっ!! 強いなルートヴィヒ!! これだから戦いは止められねえ!!」


 キルハは剣を下段に構える。


 「くらいやがれ!! 豪斬流豪斬裂波!!」


 船の床を切り裂きながら剣を振り上げる。


 その一撃は船を真っ二つに切り裂いた。


 足場が揺らぐ。キルハはその隙を狙っていた。


 「豪斬流鋼割!!」


 頭上から大剣が振り下ろされる。


 だけど今の僕なら打ち合える。


 「光迅流ニノ型激迅応用技、激光迅!!」


 力と力がぶつかり合って火花が散る。


 キルハの斬撃の衝撃で僕の剣にひびが入るが、キルハの大剣は空中を舞っている。


 今だ!!


 「光迅流三ノ型燐閃応用技、燐光閃!!」


 キルハは後方に飛びながら右腕を前に出す。


 その右腕を切り落とし、その勢いのまま右目も斬った。


 「ぐわあああっ!? 私の手と目がぁぁぁあっ!!」


 うずくまり苦しむキルハに留めを刺そうと剣を振り下ろすけど、黒き矢が僕の剣を破壊する。


 「···弓王カルフェド·イングラム」


 沈みゆく船に弓王が現れた。


 「まさか、狂牙を倒せる程の猛者が居るとはな」


 おぞましい闘気を放つ弓王は僕を一瞬だけ見てキルハを担ぐ。


 「この戦いは我らの負けだ」


 弓を構える事もなく弓王は去っていった。


 助かった。


 剣は折られ、レヴァンティンのエンチャントも切れかかっていた。


 助かったとしか言いようがない。


 敵船の数は四分の一に減り、旗船も沈み撤退していく。こちらの被害は軽微で間違いなく僕達の勝利だ。


 味方の船に乗り移り、撤退していくガゼット皇国軍船団を見つめる。


 敵の旗船を沈めた以上、船団の立て直しには時間がかかる筈だ。


 それに四十隻以上を沈めたのだ。しばらくは攻めてこないだろう。


 ガゼット皇国との戦いはひとまず終了した。

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