第二十六話 デストロイヤー


 無事にBランク冒険者になれた私は休日に森の中のB級ダンジョンを再び訪れていた。


 ダンジョンの門番に再び止められたけど、冒険者カードを見せたら驚いた顔をしながらもダンジョンの説明をしてくれた。


 このダンジョン、シュライゼムダンジョンは、地下三十階まであるダンジョンで既に踏破はされているらしい。


 十階事に強力なモンスターが居るみたいなのだが、ダンジョンのモンスターは倒してもしばらくしたら復活するらしい。


 何故復活するのかは分かっていないみたいだ。ダンジョンには謎が多いらしい。


 あらかた説明を聴くと、門番の兵士は心配しながらも通してくれた。


 ダンジョンに入ると整備されているのか最初からなのかわからないが、壁に火の魔石が埋め込まれていて明るい。


 進んでいくと早速モンスターが現れた。剣と盾を持った骸骨だ。


 アンデッドっぽいから聖属性攻撃魔法を放ったら簡単に倒せた。


 だが地上に居るモンスターと違って倒したら光の粒子となって消えた。


 剣と盾は残っている。なんか前世でプレイしたゲームみたいだなぁ。


 剣と盾をアイテム袋に入れ、道を進む。途中八畳程の部屋に入り、宝箱から杖が出たので今まで使っていた杖をアイテム袋に入れて新しい杖を装備した。



 モンスターを倒しながら進むと、階段が現れる。どう見ても自然に出来たとは考えづらい。誰が何の為に作ったのかは分からないけど、踏破して異名を獲得する為に先を進む。


 モンスターを倒し、時々宝箱を見つけながら地下へと潜っていき、あっという間に十階に到着した。


 目の前には大きな扉がある。前世のゲームとかの記憶だと、扉を開けたらボスモンスターが待ち構えていた。


 門番の兵士も十階事に強力なモンスターが居ると言ってたし、間違いないだろう。


 大きな扉を開けると、広い部屋の中心に斧を持った大きい二足歩行をしている牛のモンスターが居た。


 前世のゲーム知識だとミノタウロスというモンスターに似ている。


 ミノタウロスは私に気付き斧を構えながら近付いてくる。


 私はライトニングを無詠唱で放つ。ミノタウロスに見事当たるが、煙を体中から上げながらもまだ生きている。


 間髪入れず闇属性中級魔法シャドウランスを五つ放ち、ミノタウロスを串刺しにする。


 今度こそ絶命したみたいだ。


 斧を残して光の粒子となって消えた。


 奥の扉が開き、十一階に続く階段が現れる。



 十二階まで進んだけど、今のペースだと今日中に踏破するのは無理だ。でも引き返してまた最初から攻略するのは面倒臭い。


 どうすればいいか考えていると妙案を閃いた。


 土魔法で地面に穴を開けて、一気に三十階まで行けばいいのだ。


 土魔法で地面に穴を開けると下の階が見える。


 土魔法で階段を作って下に降りる。これを十数回繰り返し、一際大きな扉の前にやって来た。おそらくここが三十階なのだろう。


 扉を開けて中に入ると、見たことあるモンスターが居た。


 ワイバーンだ。だけど私が見たワイバーンよりも一回り大きくて黒い。


 私を見つけたワイバーンが火球を放ってきたのでウォーターシールドで防ぐ。


 お返しにフレアサイクロンを無詠唱で放つ。


 炎の竜巻に焼かれワイバーンは瀕死状態だ。


 とどめに放ったライトニングがワイバーンを駆け抜ける。


 ワイバーンは爪と牙を残して光の粒子となった。


 爪と牙をアイテム袋に入れて部屋を確認する。


 ゲームみたいに豪華な宝箱は現れたりしない。残念。


 部屋を隅々まで調べていると奥の壁の真ん中に透明な丸い石が埋め込まれているのに気付いた。


 石に触ると、光りだして機械音声みたいな声が聴こえる。


 『ダンジョンマスターと認識しました。ダンジョンコアの譲渡が出来ますが、ダンジョンコアをお受け取りになられますか?』


 え? この石が喋っているの? なんかダンジョンマスターとか呼ばれてるし、何が何だか分からないけど貰えるなら貰う。


 ダンジョンコアに向かってイエスと返事をすると、触っている石が私の手の中に吸い込まれていく。え、何? 怖いんだけど。


 『ダンジョンコアの受け渡しが終了しました。まもなくダンジョンの崩壊が始まります』


 頭の中から声が響き混乱していると、ダンジョンが揺れ始めた。


 え? 本当に崩壊するの? やばい、早く脱出しなきゃと思っていると、再び頭の中に声が響く。


 『外への脱出を希望ですか?』


 訳がわからないが、頭の中の声にイエスと応える。


 『了解しました。外へと転移します』


 まだ混乱している私の体が光り始めたと思ったら目の前が一瞬真っ暗になり、気付くとダンジョンの門番をしている兵士の目の前に居た。


 「な!? いきなり現れた!?」


 兵士が私を見て驚いている。でも私だって驚いている。


 ダンジョンの最下層に居たのに気付いたら地上に居るのだから。


 状況が理解出来ないでいると、ダンジョンから大きな地響きが起こり、ダンジョンの入口が崩壊した。


 「「え?」」


 突然のダンジョン消滅に兵士と二人で呆然と立ち尽くす。



 しばらくして兵士が我に返り私の手をとる。


 「···何故ダンジョンが崩壊したのか詳しく調べる必要がある。恐らく君が原因だろう? 悪いが詰所まで同行してもらう」


 王都シュライゼムまで戻り、兵士の詰所で事情聴取を受けた。


 最下層での出来事を話すが胡乱な視線を向けられる。


 専門家を呼ぶから待てと言われたので詰所で待っていると、魔法学院で魔法歴史学を教えているデクス先生が現れた。


 デクス先生にも兵士に話した内容を伝える。


 「う〜む、確かにダンジョンの最下層の壁には透明な石が嵌め込まれている。だが、私や他の学者達が調べても何の反応も示さなかった。なのにステラ嬢が触ると反応し、ダンジョンコアはステラ嬢の身体の中に入ってダンジョンは崩壊したか。う〜ん、実に興味深い!!」


 デクス先生が目を爛々と輝かせている。


 結局、夜まで事情聴取を受け寮に帰った。


 とりあえずは解放されたのだけど、私がダンジョンを崩壊させた事はすぐに王都中に広まった。


 冒険者ギルドを破壊しそうになった件も広まっていたらしく、私は畏怖の視線を向けられ、『破壊者デストロイヤー』と呼ばれる様になった。


 ···異名が欲しいと言ったけど、そんな物騒な異名は欲しくなかった。

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