第十一話 Aブロック決勝


 Aブロック一回戦が終わり、話題はすっかりチェルシー·モルフェイド一色になった。 


 私の事は忘れられたようだ。


 二回戦、三回戦と勝ち上がり、Aブロック準決勝に進出。


 準決勝の相手は見覚えがある。たしか昨日食事会をした時に隣の席で食べていたラダンさんの仲間だった筈。


 『準決勝第一試合はマドランガ共和国魔法学院二年生イレーヌ·ミストファン選手対ヨルバウム帝国シュライゼム魔法学院一年生ステラ選手の対決となります。この戦いどう見ますか、フェイさん?』


『そうですね、やはりステラ選手は無詠唱を使えますから有利ですよね。イレーヌ選手は短縮詠唱は使えるので、対応次第で勝てる可能性もあります』


 『そうですか。じゃあステラ選手の無詠唱にイレーヌ選手がどのように対応するか見物ですね』


 「はぁ〜、勝手な事言っちゃって。戦う身にもなれっていうのよ。昨日ぶりねステラちゃん」


 「うん、昨日ぶりねイレーヌさん」


 「まぁ、やれるだけの事はやるつもりだからお互い全力でいきましょうステラちゃん」


 「ええ、そのつもりよ」


 イレーヌさんと握手をして戦闘態勢に入る。


 審判が開始の合図をした瞬間、イレーヌさんが短縮火属性上級範囲魔法をフレアレインを放つ。


 それをウォーターシールドで防ぎ、攻撃の為の魔力を手の平に溜めて無詠唱で風と土の複合魔法ガイアサイクロンを放つ。


 それを短縮詠唱水属性上級魔法タイダルウェーブで迎え撃つイレーヌさん。 


 更に続けて短縮詠唱火属性上級魔法フレアを自分が放ったタイダルウェーブに向けて放った。


 まさか!? まずい!! 


 私はすぐにシャドーウォールを球状に展開し、更にガイアウォールをその上から球状に展開する。


 私が防御魔法を重ねて展開したと同時に物凄い爆発が舞台を包む。


 水に非常に高温の物質を接触させる事で生まれる水蒸気爆発を起こしやがった。


 言うなれば擬似複合魔法スチームエクスプロージョンである。


 わかっていなければやられていた。


 私は展開していた防御魔法を解除し、無詠唱上級複合魔法ライトニングを勝ったと確信して油断しているイレーヌさんに放つ。


 「きゃあああ!?」


 イレーヌさんは感電し気絶した。


 ふぅ危なかった。


 審判が試合終了の合図を出し私の勝利を告げた。


 試合後イレーヌさんと握手を交わす。


 「わたしのとっておきを防いじゃうなんて流石ね。完敗よ。私に勝ったからには優勝目指してね」


 「うん、自分の全力を出して優勝目指すよ」


 こうして私はAブロック決勝へと進んだ。


 相手はもちろんチェルシー·モルフェイド。


 強敵だけど、戦うことを想像してワクワクしている自分がいる。


 『さぁAブロック決勝戦がまもなく始まります。選手の入場です。先に登場したのは今大会最年少のステラ選手。得意の無詠唱と複合魔法で勝ち進みました。対するは最上級魔法を使いこなす若き大魔導チェルシー·モルフェイド選手。実はチェルシー選手の最新情報を入手したのですが、なんとあの十二星王に名を連ねる『大賢者』イルティミナ·ホルス様の弟子らしいのです。この情報についてフェイさんはどう思いますか?』


 『それが本当だとしたら彼女が最上級魔法を使えるのにも納得がいきますね。『魔導女王』イルティミナ様は魔法の深淵に触れたとも言われるお方ですから。弟子に最上級魔法を教えるぐらいは簡単でしょう』


 『なるほど、ちなみにフェイさんはどちらが勝つと思いますか?』


 『順当にいけばチェルシー選手でしょうけど、ステラ選手もまだ何かを隠している気がするんですよね』


 フェイさん鋭い。確かに私にはまだ切り札の必殺技その三がある。


 恐らく使う事になるであろう相手と対峙する。


 金髪ドリルツインテールの髪型と黃色の瞳をしたチェルシー·モルフェイドは無表情だ。私など眼中にないという顔をしている。


 よし、その表情崩してやるわ!!


 すぐに魔法を放てるように今の内から魔力を手のひらに込める。


 審判が試合開始の合図を出す。


 開幕速攻!! 上級複合魔法のライトニングをチェルシーに放つ。


 チェルシーは無詠唱でシャドーウォールを展開し防ぐ。


 私は手を止めない。


 中級魔法フレイムランスの三十ニ連発だ。くらえ!!


 「ダークネススフィア」


 三十ニの炎の槍はチェルシーが生み出した黒い球体に吸い込まれた。


 「レヴァンティン」


 続けて光属性最上級魔法を放ってきた。


 意地でも防ぐ。


 シャドーウォール、ガイアウォール、アクアウォール、トルネードウォールの防御魔法を重ね衝撃に備える。


 光の大剣がトルネードウォールをいとも簡単に破壊し、アクアウォールもぶち破る。


 だけど勢いはだいぶ殺した。後はガイアウォールとシャドーウォールが持ってくれれば。


 しかし、ガイアウォールは砕け散る。最後の砦のシャドーウォールにも亀裂が入る。持て。持て。持ってくれ!! 


 シャドーウォールの亀裂が大きくなり破られ、私の体は吹っ飛んだ。


 だけど、ほとんど威力を殺せたおかげで気を失う程のダメージは受けていない。


 歯を食い縛り、よろめきながら立つ。


 その姿を見て初めて表情を崩すチェルシー。


 「···レヴァンティンを受けて立つなんて」


 その表情を見て私はニヤリと笑う。


 「やっとあなたの表情を崩せたわ」


 「···次で決める」


 「そう、気が合うわね。私もそのつもりよ!!」 


 チェルシーと私は同時に手のひらに魔力を込めだす。


 チェルシーの左手は白く光り、右手は黒く光る。


 私はとっておきの必殺技三を使うことにした。


 両手に六属性の魔力を込める。


 チェルシーが左手と右手を合わせ黒と白の光が混ざる。


 「カオティックノヴァ」


 黒と白の奔流が私に向かってくる。


 私は六属性の上級複合魔法を放つ。その名は。


 「ビックバン!!」


 六色のエネルギーの塊が白と黒の奔流にぶつかる。


 その瞬間、大爆発が起こり、私とチェルシーは後方へと吹き飛ばされる。


 闘技場は大きく揺れ、観客を守る結界にはヒビが入る。


 数秒後、揺れは収まり土煙が晴れて舞台の様子が見えるようになる。


 闘技場の壁には大きな亀裂が入り、所々崩れている場所もある。


 チェルシーと私は離れた位置でお互いに倒れている。


 互いに意識はあるようで立ち上がろうと藻掻く。


 産まれたての子鹿の様に必死で立とうとする私とチェルシー。


 先に立ったのは私だった。


 だけど私の体は前方に倒れた。


 意識はあるのに体がピクリとも動かない。


 チェルシーはよろめきながらも見事立ち上がった。


 審判が私に近寄り、私が動けないのを確認して、試合終了の合図を出す。


 私は負けた。


 『試合終了〜!! Aブロック決勝戦勝ったのはチェルシー·モルフェイド選手!! まさかまさかの接戦。最後はどちらが勝つか分からない状態までもつれ込みましたが、フェイさん、この試合いかがだったでしょうか?』


 『大変見事な試合でした! チェルシー選手が最後に放った魔法は光と闇の最上級複合魔法でした。一方ステラ選手が放った魔法は六属性全ての魔力を込めた上級複合魔法でした。どちらの魔法も簡単に見られる代物ではありません。大変興味深い試合でした!!』


 『···つまり、どちらの選手も素晴らしかったという事ですね。白熱した試合を観せてくれたチェルシー選手とステラ選手に大きな拍手を!!』


 闘技場に拍手喝采が飛び交う中、私は審判に回復魔法をかけてもらった。


 起き上がると目の前にはチェルシーが。


 「···君の魔法凄かった」


 私に興味のなかったチェルシーが私を見つめている。


 「···あなたには負けたけどね」


 「···それでも凄かった。···僕をこんなに驚かせれるのはお師匠様ぐらい。誇っていい」


 何様だと言いたいけど、私に勝った相手なので言わないでおく。


 「···君の名前は?」


 知らなかったんかい。まぁ、試合前は私の事など眼中になかったみたいだし。


 「ステラよ」


 「···ステラ。···うん、覚えた。···ステラ、またいずれ戦おう」


 「うん、また戦いましょう」


 私とチェルシーは笑顔で握手した。


 こうして私の個人戦は終了した。



 闘技場の舞台から去って控室に戻る。


 すると誰も居ない筈の控室へと続く通路にはルートヴィヒが居た。


 ルートヴィヒは手を広げる。


 それを見た私は駆け出してルートヴィヒの胸に飛び込み泣きじゃくる。


 「お兄ちゃん、私負けちゃったよ〜!!」


 大泣きする私の頭を撫でるルートヴィヒ。


 「頑張ったね、ステラ。本当によく頑張った」


 そう言って私が泣き止むまで抱きしめて撫でてくれた。

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