第一章 魔法学院編
第一話 入学
雪が溶け、草木の新芽が出始めた頃、僕達はキプロの街を出た。
今回王都に向かうのは僕とステラ、セシルの三人だけ。魔法学院は使用人の出入りは禁止しているので、レベッカとダスマンは残念そうにしていた。
シェイドは新しくフェブレン邸に来た修練生に剣を教えないといけないので来ない。
護衛は去年の試験を受けに行った時と同じ刹那の剣。
王都への旅路は経験してるから何も問題なく王都シュライゼムに着いた。
刹那の剣にお礼を言って別れ、魔法学院へと向かう。
魔法学院の入学式は明日だけど、魔法学院の寮には前日から入れると合格通知の紙に記載されていた。
魔法学院の門に到着すると警備のおじさんに合格通知の紙を見せ中に入る。
警備のおじさんに教えてもらった道を進むと、二つの大きく立派な館が。
右の館の扉の横に男子寮と書かれた木の板が立て掛けられている。
左の館の扉の横には女子寮と書かれた木の板が。
「ステラ、ここで別れるみたいだね。一人で大丈夫?」
「うん、平気よ」
「それじゃあ明日また会おう」
「うん、じゃあね」
ステラと別れ、男子寮の扉を開けてセシルと二人で中に入る。
すると寮のエントランスに居た一人の若い男性が近付いてくる。
「君達新入生だろ?」
「はい、そうですが?」
「俺は寮長をしている三年のアセム·ゴルドだ。よろしく」
「ルートヴィヒです。よろしくお願いします」
「セシル·フェブレンです。よろしくお願いします」
「ルートヴィヒとセシルだな。お前達の部屋は···」
胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出して広げ、何かを確認するアセム先輩。
「同じ部屋の二○五号室だな。案内するからついてきてくれ」
言われた通りアセム先輩について行き、二階に上がり二○五号室と書かれたドアの前につく。
アセム先輩が鍵を開け、ドアを開くと、左側と右側に同じ様にベッドと机が置いてある。
ベッドの上には事前に送っていた荷物が置いてある。
「うん、荷物もちゃんと届いているみたいだな。じゃあ、これが部屋の鍵だ。無くすなよ」
僕とセシル、それぞれに鍵が渡される。
「よし、それじゃあ寮を簡単に案内するからついてきてくれ」
手で持ってきた荷物を部屋に置いたあと、アセム先輩について行き、食堂、浴場、トイレ、談話室を案内してもらった。
「一通り教えたけど、寮の事で何か分からない事があったら一○一号室に居るからいつでも声をかけてくれ」
「「ありがとうございます」」
アセム先輩と別れ、自分達の部屋に戻りベッドに座る。
「セシル三年間よろしくね」
「あぁ、よろしくルゥ」
◆◆◆
ルートヴィヒとセシルと別れ、女子寮に入り、三年で寮長のアンナ·パーセル先輩に、私が今日から住むことになる部屋へと案内してもらう。
「ここがステラちゃんの部屋の三○二号室よ」
アンナ先輩がドアをノックすると「はい」と中から返事がありドアが開く。
「アンナ先輩? どうしたんですか?」
中から茶髪を三つ編みおさげにした少女が出てきた。
「あなたのルームメイトを連れてきたのよ。ステラ、この子はあなたのルームメイトのローナよ」
「ステラ、七歳です。今日からよろしくね」
「え!? わ、私はローナ、十二歳です。よ、よろしく」
あれ? 何か緊張してる? 何で?
「ローナはあなたと同じ新入生なの。3日前に寮に来たから寮の事はローナに聞いてね。ローナ、ステラに色々と教えてあげてね」
「わ、わかりました」
アンナ先輩が去っていき、私とローナは二人きりになる。
なんか気まずい空気が流れてる。
「あの〜、中に入ってもいい?」
「あっ、ごめんなさい! ど、どうぞ入ってください」
ドアから離れてくれたので中に入る。
ローナは左側のベッドを使っているみたいなので右側のベッドと机が私のか。
持ってこれなかった荷物は事前に寮に送っていたのだけど、ベッドの上に置かれている。無事に届いてるみたいだ。
持ってきた荷物を机の上に置き、ベッドに座って一息つく。
ローナは立ったまま動かない。
「なんでそんなに緊張してるの?」
いつまでも気まずいのは嫌なので思い切って聞いてみた。
「···じ、実は私特待生試験を受けていて、その時にステラさんの魔法を見たんです」
あちゃ〜。あの私が調子に乗り過ぎて魔法演習場をめちゃくちゃにした魔法を見てたのか〜。そりゃあ、怯えるよね。
「あれはちょっとやり過ぎたよね。怖がらせてごめんね?」
「いえいえ、確かにかなり驚きましたけど、あんな凄い魔法は初めて見ました」
あれ? ビビっていない?
「じゃあ、私と友達になってくれる?」
「と、友達ですか!?」
「ダメ?」
セシルなら簡単に陥落する必殺上目遣いでローナを見つめる。
「わ、私なんかで良ければ」
「やったぁ。じゃあこれからは名前は呼び捨てで。ローナの方が年上なんだから敬語はやめてね」
「え? ···分かった、これでいい? ステラ?」
「うん、これから三年間よろしくねローナ」
「うん、よろしくねステラ」
緊張が解けたのか笑顔を向けてくれるローナ。良かったぁ。気まずい空気の中一緒に生活するのは辛いもんね。
こうして魔法学院で初めての友達が出来た。
その後、打ち解けたローナに寮を案内してもらい、お風呂に入り、夕食を食べて就寝した。
――翌日。部屋をノックする音で目が覚める。ローナも寝ぼけ眼だが起きた。
ベッドから起き上がり、ドアを開けると見覚えのある顔が。
「確かソフラ先生でしたか?」
「はい、朝早くに申し訳ありません。実は今日の入学式の新入生代表の挨拶をステラさんにして頂きたいのです」
「え? 私が?」
「毎年入学試験で首席を取った方に挨拶をお願いしているのですが、去年の試験でステラさんは過去最高の成績で首席を取りました。なのでステラさんにお願いしたいのですが、引き受けて下さいますか?」
目立つチャンスだ。断る理由が無い。
「分かりました、引き受けます」
即答で返事した。
「ありがとうございます。入学式は十時からですので遅れないように。それでは失礼します」
ソフラ先生が去っていくとローナが近付いてくる。
「ステラ、凄いね!! 過去最高の成績で首席だって!!」
ローナが自分の事の様に喜んでくれる。
「たまたまだよ。運が良かっただけ」
内心ドヤ顔したいのを必死に抑えて謙虚なフリをする。
朝食を食堂で食べ終わった後、入学試験の成績とクラスが校舎前に貼り出されているらしいので、見に行く為にローナと一緒に女子寮を出ると、ルートヴィヒとセシルの姿が。どうやら待っていてくれたみたいだ。
「お兄ちゃん、セシル、おはよう!」
「「おはよう」」
「待っててくれてありがとう。あっ、紹介するね。ルームメイトのローナだよ」
ローナが所在なさげにしていたのでルートヴィヒとセシルに紹介する。
「ロ、ローナです。よろしくお願いします」
「ステラの兄のルートヴィヒです、よろしくお願いします」
「ルートヴィヒとステラの幼馴染のセシル·フェブレンだ。よろしく頼む」
笑顔のルートヴィヒとセシルを見て頰を赤らめるローナ。
四人で移動しているとローナが耳打ちしてくる。
「お兄さんと幼馴染の人カッコイイね」
···カッコイイのは認めるがやらないぞ?
校舎前につくと沢山の生徒が貼り出されている成績とクラス表を見ている。
私達も見ると、首席はもちろん私。筆記試験は満点。実技も満点。言う事なしの成績だ。
次席はルートヴィヒ。筆記試験満点で実技は私についでの二位。流石は天才ルートヴィヒ。
セシルは筆記試験は惜しくも満点に届かず。実技はルートヴィヒと同率二位だ。総合結果は三位。
四位はなんとあのいけ好かないクルト皇子だ。筆記試験はセシルの次に高い点数で、実技はルートヴィヒとセシルと同率二位。
あの皇子、結構優秀なんだね。
ローナはというと、なんと五位。筆記試験は私とルートヴィヒと同じ満点。実技は十位と好成績だ。
「ローナって頭良いのね!! 総合成績五位なんて凄いわ!!」
「ステラやルートヴィヒ君、セシル君には負けるよ。三人共凄いね」
褒め合ったあと、クラス表を見ると四人共同じSクラスだ。成績順でクラスを決めているらしい。という事はあのクルト皇子も同じクラスという事だ。
噂をしているとご本人登場。
イケメンのお供二人を引き連れてこちらに近付いてくる。
「お前ら、入学試験で勝ったからって調子に乗るなよ!! 次に勝つのはこの俺だ!!」
私達を睨みながら叫んだあとドスドスと足音をたてながら去っていく。
勝手に宣戦布告していったよ。こりゃあ完全に目をつけられたな。困った困った。
そろそろ入学式の時間なので、入学式を行う広い屋内演習場へと向かう。演習場の中に入ると、一年Sクラスと書かれた大きなプレートをソフラ先生が持っているのでソフラ先生が立っている前の席に座る。
時間がきて入学式が始まる。
まずは校長の有り難い挨拶から始まる。何で校長の話って無駄に長いんでしょうね?
続いては生徒会長の挨拶。
生徒会長が呼ばれると、黒髪黒眼の美人さんが壇上に立ち、素晴らしく簡潔な挨拶をした。カッコイイ。私もあんな風に挨拶するぞ。
生徒会長の挨拶が終わり、次は新入生代表の挨拶。つまり私の番。
名前を呼ばれ壇上に立ち、それはそれは素晴らしい挨拶をして拍手喝采。
···嘘です。少し噛みました。
こうして私達の入学式は終わった。
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