第十三話 シュライゼム魔法学院特待生試験


 ルートヴィヒとセシルが光迅流本山の門弟になった翌日。


 昨晩は光迅流本道場を出た後、王都に住んでいるマルタと待ち合わせして夕食を一緒にとり、その後王都シュライゼムの宿に泊まった。  


 そして今日は待ちに待ったシュライゼム魔法学院の試験の日。


 昨日はルートヴィヒとセシルが活躍する日だったけど、今日は私の番。めっちゃ目立ってやるわ!!


 シェイド、レベッカ、ダスマンは宿に残り、ルートヴィヒ、セシル、マルタを引き連れて気合満々で魔法学院へと向かう。マルタは暇だから見物するらしい。



 二、三十分かけて到着した。


 な、何これ!? 馬鹿でかいんですけど!? 


 門から見る魔法学院は西洋風のお城の様な外観で敷地もかなり広い。


 ほぇ〜。合格すれば来年からここに通えるのか。


 「邪魔だ!! どけ!!」


 魔法学院に見惚れていると、後ろから無粋な声が。


 振り向くと不機嫌そうな赤髪紅眼で吊り目の美少年が居た。


 「失礼、どうぞ」


 セシルが私の手を引いて道を空ける。


 「ふん!!」


 二人の屈強そうなお供を連れて、横柄な態度で魔法学院に入っていく赤髪の美少年。ちよっとカッコイイからって調子に乗ってるのかしら。


 「セシル、なんであんな態度の悪い奴に黙って道を譲ったのよ」


 「ステラ、あの方の服に刺繍してあった紋章を見なかったのか? あれは王家の紋章だ。あの年齢からして恐らく第三皇子のクルト·ヨルバウム殿下だろう」


 えっ? 皇子? ···危ね〜、喧嘩売りそうになったわ。


しかし、あれが皇子か。美少年だけど関わると面倒そうだし、関わらないでおこう。


 魔法学院の門をくぐると、沢山の人の列が。


 長蛇の列の先を見ると試験の受付と書いている大きな看板の隣に受付が設けられている。


 二十分程待たされて、受付を済ませようとすると、受付の女性が胡乱な目つきで見てくる。


 「お嬢さん、ここは十三歳になる年代の子しか受験出来ないんですよ?」


 「はい、だから特待生試験を受けに来たんです」


 受付の女性は私の言葉を聴くと大きく溜息を吐く。


 「はぁ〜、あなたの様に特待生試験を簡単に受けようとする子がいて毎年困っているんです。だいたい特待生試験を受けるには魔導師の推薦が必要なんですよ?」


 え? 推薦が必要? 初耳なんですけど?


 どうしようと戸惑っているとマルタが受付の女性の前に出る。


 「お久しぶりです、ソフラ先生。推薦ならわたしがするので大丈夫ですよね?」


 「マルタさん!? 宮廷魔導師のあなたがどうしてここに!?」


 受付の女性の大声に周囲が反応する。


「マルタってあの?」「最年少でヨルバウム帝国宮廷魔導師になったあの?」「クワトロのマルタか!?」


 と周囲がざわつく。へぇ〜、マルタって有名なんだ。


周囲の声などお構いなしに受付の女性と話を続けるマルタ。


 「今日は休みなので弟弟子二人と妹弟子の晴れ舞台を見学に来たんです」


 「弟弟子と妹弟子? まさかその子達はベルグア老師の!?」


 「はい、私と同じ弟子です。なのでこの三人の特待生試験を認めてくれますよね?」


 「···わかりました。ベルグア先生の弟子でマルタさんが推薦人となれば受けさせない訳にはいきません」


 私だけじゃなくルートヴィヒとセシルも特待生試験を受けることになった。


 受付を済ませ、特待生試験を受ける者達を集めた教室に案内される。五十人ぐらい居るかな? 中には例の赤髪の第三皇子もいる。うわぁ、あいつも特待生試験受けるのかぁ。


 先程の受付の女性――ソフラ先生が大量のプリントを抱えて入ってくる。


 「それではまず筆記試験から始めます」


 全員に試験問題と回答用紙が配られる。


 「それでは始め!!」


 ソフラ先生の声で、一斉に鉛筆が動き出す。


 さてさて問題の方はどうかな? 


 こ、これは···簡単過ぎる。


 これって特待生試験だよね。このレベルの問題なら満点とれちゃうよ?


 私は余裕綽々で問題を解いていく。 


 二十分も時間が余ってしまった。 



 ――キーンコーンカーンコーン。



「それでは書くのを止めて下さい」


 終了の合図の鐘がなり、回答用紙が回収されていく。


 私には簡単な問題だったけど、周囲は違うみたい。


 解けなくて頭を抱えていたり、机を叩いていたりして悔しがっている人間がちらほら見える。


 ルートヴィヒとセシルは余裕だったのか笑顔だ。


 例の赤髪の第三皇子クルトも余裕そうな顔をしている。



 続いては水晶玉で魔法属性の適性を見るみたい。


 特待生試験という事もあってか、二つの属性持ち――ダブルはちらほら居る。


 次は赤髪皇子クルトの番だ。


 クルトが水晶玉に触れると赤、緑、茶色に光る。


 おぉ、と教室がざわめく。トリプルか。中々やるな。


 その後セシルとルートヴィヒも測り、ダブルと聖属性のシングルという結果だった。


 そして私の番。ふふっ、見て驚くがいい!!


 私が水晶玉に触れると当然六色に光る。


 「全属性ですって!?」


 周囲も驚いているが、ソフラ先生が一番驚いている。


 ふふっ、目立ってる目立ってる。気持ち良く周囲の視線を浴びていると、寒気が。寒気のする方向を見ると、めっちゃ不機嫌そうに私を睨んでいるクルト皇子。


 やっば、目をつけられたかも?



 最後の試験は実技試験。


 場所は魔法演習場に移り、遠くの的目掛けて自分の最大級の魔法をぶつけるという至ってシンプルな実技だ。


 皆、的に向かって魔法を放つけど初級魔法や中級魔法ばかり。


 私に勝てる奴は居ないなと思っていると、クルト皇子の番。


 「偉大なる焔の大精霊よ、あらゆる物を燃やし尽くす気高き大精霊よ、我の意志に応えよ、フレア!!」


次の瞬間、紅き熱の塊が的目掛けて解き放たれる。


 ――ズドォォォオン!!


 的どころか周囲まで溶けている。上級魔法を使いやがった。


 周囲の人間は上級魔法を使ったクルト皇子を見て驚いている。そんな周囲の反応を見てクルト皇子はドヤ顔をしている。


 だがその後すぐにセシルが風属性の上級魔法サイクロンを使い、ルートヴィヒが聖属性の上級魔法ディメンションレイを使った事により目立たなくなった。


 セシルとルートヴィヒを睨んでいるクルト皇子。


 やっべ〜なぁ。これ以上目立つと完璧にクルト皇子に目をつけられる。


 それでも私は目立ちたい欲に勝てなかった。


 ヤドリギの杖に魔力を込め、今の私の最大級魔法を放つ。


 「フレアサイクロン!!」


 吹き荒れる熱き暴風は的どころか魔法演習場の地形さえ大きく変えてしまう。


 「···た、短縮上級複合魔法ですってっ!?」


 ソフラ先生は原形を留めていない無惨な姿の演習場を呆然と見ながら呟く。


 周囲の人間も驚きのあまり口を大きく開けている。


 例のクルト皇子はというと、私を化け物でも見るかの様に驚愕の表情で見つめている。


 セシルとルートヴィヒとマルタはやり過ぎだと溜息を吐いている。


 ······あれ? もしかして調子に乗り過ぎたかも?



 こうして私の特待生試験は幕を閉じた。

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