第十二話 光迅流本山
ボリスの町での事件以降は何も問題は起きず、二週間かけて王都に到着した。
王都シュライゼム。遠くから見ても大きい都市だと思ったけど、近くに来ると防壁の大きさにも目を見張るものがあるわ。
門の憲兵に冒険者カードを見せて王都の中に入ると、人、人、人!!
人の多さが桁違い。立ち並ぶ店の活気も凄い。さすが王都といった所ね。
馬車を厩舎に預ける。
「じゃあとりあえず私達は一時的に抜ける」
リタ達刹那の剣は王都迄の護衛を完了したので、ここで一時的にお別れ。
私達がキプロに帰る時にまた護衛をしてくれる手筈になっている。
「ここまでありがとう。帰りもよろしくね」
「ああ。3人共、試験に受かるといいな」
刹那の剣と別れ、今は王都シュライゼムに居を構える光迅流本山に向かっている。
なんでもシェイドが光迅流当主に用事があるらしい。
十五分程歩き、光迅流本道場に到着した。
道場としてはかなり大きく門構えも立派だわ。
門をくぐり入っていくシェイドについていくと木刀を打ち合っている音が聴こえてくる。
広い道場の中を覗くと、百人以上の門下生が木刀を打ち合っている。これだけの人数が打ち合っているのは壮観だわ。
シェイドが入口で黙礼した後、道場に入る。私達もシェイドに倣って黙礼して道場に入ると、道場の一番奥に正座している人――恐らく当主が私達に気付く。
「皆、打ち合い止め!!」
当主の右隣に座っている男性の声で皆、打ち合いを止めて壁際に引き正座する。
百人以上の視線が私達に集まる。ごくり、緊張するなぁ。
緊張しながらもシェイドについて行き、当主から五メートル程離れた距離でシェイドが正座するので、私達はシェイドの後ろで正座する。
「お久しぶりです、師匠」
シェイドが当主に向かって頭を下げる。
「久しぶりだね、シェイド。フェブレン家に戻った筈の君が何用かな?」
銀髪を背中まで伸ばした当主はにこやかに笑いながらシェイドに問う。
「本日はお願いがあって参りました」
「お願い?」
その言葉で道場がざわつく。
「どの面下げて戻ってきた?」「逃げ出した奴が今更顔を出してお願いだと?」「ふてぶてしい奴だ」
と周囲から声が聴こえる。シェイドに向けられる眼差しに歓迎の色は視えない。
「静かに!!」
当主の一声で道場のざわつきは止まる。
「してお願いとは何かな? シェイド?」
「私には初伝と中伝の位を与えた二人の弟子が居ます。ルートヴィヒ、セシル様、まずは自己紹介を」
「光迅流中伝ルートヴィヒです」
「光迅流初伝セシル·フェブレンです」
二人が挨拶すると再び道場がざわつく。
それを当主が手で制して静かになる。
「ふむ、年は?」
「僕もセシルも十二歳です」
「ほう、その若さで中伝と初伝の位を与えられたのか。素晴らしいな。私は光迅流十四代目当主のメルト·オルディアだ。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
メルトさんはにこやかに二人を褒めるけど、門下生達には懐疑的な空気が生まれている。
「お願いとは、来年からこの二人はこのシュライゼムの魔法学院に通う事になると思うのですが、この二人を来年から門弟としてこの道場に通わせていただきたいのです」
「ふむ、なるほど。私は構わないよ。ただ···」
メルトさんは門下生達を見る。
「ただ弟子達が君達の実力に懐疑的みたいだ。どうだろう? 君達の実力を見せてくれないかい? 実力を示せば弟子達も納得するだろうから」
ルートヴィヒとセシルは頷く。
「それでは同じ位同士で木刀で戦ってもらう。まずは初伝の戦いからだ。グラシウス相手をしてあげなさい」
「はい!!」
門下生の中から元気良く大柄の男が出てきた。
対するセシルは静かに立ち、グラシウスと対面する。
グラシウスはニヤニヤとセシルを見ている。どうもセシルを甘く見ているみたいだ。
「先に一本取ったほうが勝ちだ。用意いいかい?」
グラシウスとセシルが頷く。
「光迅流初伝グラシウスだ!」
「光迅流初伝セシル·フェブレン」
お互いに名乗りをあげる。セシル、そんな奴ボコボコにしちゃって!!
「それでは始め!!」
当主メルトさんの開始の声が道場に響いた瞬間、余裕面をしていたグラシウスの身体が空中できりもみ回転した。
「それまで!! セシル·フェブレンの勝ち!!」
「「「え?」」」
一瞬で勝敗が決まった事に門下生達が口を開けて驚いている。
やられたグラシウスも地面に倒れて呆然としている。
セシルは礼をした後、道場の壁際に下がろうとする。
だが数秒経って正気を取り戻したのか、グラシウスが声を荒げる。
「待って下さい!! 今のは何かの間違いだ。俺がこんなガキに負ける訳がない。次は油断しません!! もう一度戦わせて下さい!!」
「グラシウス、これが真剣だったら君の身体は真っ二つだ。死体になった君が再戦できるとでも?」
メルトさんに冷ややかな目で見られて身体が硬直するグラシウス。
「はあ〜、本道場の初伝だというのに情けない。今何が起こったのか分かってない弟子も居るみたいだし。それに引き換えセシル君、君の燐閃は素晴らしかったよ」
「ありがとうございます」
メルトさんに褒められて嬉しそうなセシル。よくやったわ、セシル。
「続いては中伝の戦いだ。ナーゼ相手をしてあげなさい」
「はい」
当主メルトさんの左隣に座っていた若い女性が立つ。
ルートヴィヒも立ちナーゼという銀髪ポニーテールの女性と向かい合う。
「光迅流中伝ナーゼ·オルディア。参ります」
「光迅流中伝ルートヴィヒ参ります」
お互いに構え名乗り見つめ合う。
「それでは始め!!」
メルトさんの開始の声で木刀の激しい打ち合いの音が始まる。
お互いに剣を振ったようには視えない。なのに木刀の打ち合いの音が幾重にも道場に響き渡る。
ナーゼとルートヴィヒはなんだか楽しそうだ。
二人の身体が消えては現れ、消えては現れを繰り返す。
たぶんルートヴィヒが得意な瞬歩というやつだ。ナーゼさんも使えるのか。
二人は汗をかきながらも楽しそうに戦っている。
だけど、その打ち合いもナーゼさんの木刀が宙を舞った事により終わりを告げる。
「勝負あり!! 勝者ルートヴィヒ!!」
勝敗の結果に門下生達は唖然としている。ナーゼさんの勝利を疑ってなかったみたいだ。
そのナーゼさんとルートヴィヒはお互いに礼をした後、笑顔で握手をしている。
「ルートヴィヒ君、負けました。見事な剣さばきでした」
「ナーゼさんこそ学ぶ事が多い見事な剣さばきでした」
お互いに褒め合っている。
「ルートヴィヒ君。ナーゼは十五歳の若さでこの道場の中伝の中で一番強い子だったんだよ。親ながらこの子には剣の才能があると思っていたんだけど、そのナーゼに打ち勝つとは。シェイドの剣を初めて見た時以上の驚きだよ。実に見事だった」
「ありがとうございます」
「さて、二人の実力は分かったみたいだけど、まだ納得のいっていない子はいるかな?」
メルトさんが周囲の門下生達を見渡す。もうルートヴィヒとセシルに懐疑的な者は居ないみたいだ。
「居ないみたいだね。じゃあシェイド。君の願い通り、この二人を門弟として認め、来年からこの道場に通う事を許すよ」
「ありがとうございます」
シェイドがメルトさんに頭を下げる。
この日ルートヴィヒとセシルは、光迅流本山の門弟になった。
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