第四話 フェブレン邸での一日


 フェブレン邸での生活が始まって三ヶ月が過ぎた。


 朝起きるとまず身なりを整え、洗面所で歯を磨き、顔を洗って朝食を食べに行く。


 食堂のカウンターに向かい食事を受け取る。


 マルタ、レベッカ、ダスマンが先に食堂のテーブルに座って食べているのを発見したので、空いているマルタの対面の席に座る。


 「マルタ、レベッカ、ダスマン、おはようございます」


 「「おはよう」」


 三人共笑顔で挨拶を返してくれる。この三ヶ月で三人とだいぶ打ち解けた。


 今日の朝食はベーコンエッグに白パンと野菜のスープ。


 「いただきます」と手を合わせ食事に手を付ける。


 白パンなんてスラム時代はもちろん娼館で働いていた時も食べたことが無い。ふわふわでもっちりとしていて柔らかい。


 ステラの朝食は離乳食だ。


 ステラの為にわざわざ食堂のコックさんが毎日作ってくれている。


 ステラにも食べさせながら食事をしているので、食べ終わるのがいつも遅い。


 なのにいつも三人は僕達が食べ終えるのを待ってくれる。


 朝食を食べ終わると、三人と一緒に勉学室へと向かう。


 今日の最初の授業は貴族の作法だ。


 フェブレン邸での授業は貴族の作法、使用人の技能訓練、剣術の修練、魔法の修練、ヨルバウム帝国の歴史、数学、国語の七つがある。


 マルタ、レベッカ、ダスマンはそれぞれなりたい夢が違う。それなのに修練生は全ての授業を習う。


 たとえなりたい職業があっても、将来なる職業は違うかもしれない。どの職業になっても役に立てれる様にというアルゴ様の想いから、この七つの授業をまんべんなく習う決まりになっている。


 今日の最初の授業である貴族の作法の内容は、社交界の際の礼儀作法と食事のテーブルマナーである。


 貴族の作法の授業は、将来貴族に仕える使用人になりたいレベッカとダスマンにとっては、覚えておいて損はない授業なので真剣に二人は聴いている。


 だけど、魔法にしか興味のないマルタにとっては苦痛らしく、いつも居眠りをして怒られている。


 僕はというと、どんな事でも覚えるのは嬉しいので、楽しく学ばせてもらっている。ちなみにステラは僕の膝に座らせている。


 貴族の作法の授業が終わると、次は国語の授業。簡単に言えば文字の読み書きである。


 この授業はマルタも意欲的だ。魔導書を読めるようになるからだ。


 僕は娼館で女将さんに文字の読み書きは教えてもらっていたので得意だ。


 国語の授業が終わると、数学の授業。数学も国語の授業と同様の理由で得意である。


 午前と午後に三つずつ授業があるので、とりあえず午前の授業は数学で終了だ。


 午前中の授業が終われば昼食の時間なので皆で食堂へと向かう。



 昼食を終えたら一時間程自由時間があるので、図書室で本を読んでいる。本を読んでいるとステラが喜ぶからである。


 午後の授業の最初はヨルバウム帝国の歴史の授業だ。


 昼食後のせいか、マルタだけじゃなく、レベッカやダスマンも船を漕いでいる。


 なのにステラは起きている。まるで授業の内容がわかってるかのように黒板と教師を見つめている。ステラは赤ちゃんなのにどの授業でも眠らない。


 寝る事が仕事の赤ちゃんがこの状況なので心配しているが、今の所問題はなさそうだ。


 午後の二つ目の授業は剣術の修練だ。


 動きやすい服装に着替え、修練場へと向かう。


 実は七つの授業の中で一番好きなのは剣術の修練である。


 元々体を動かすのが好きなのか、とにかく剣を振るうのが楽しい。


 最初はマルタ、レベッカ、ダスマンとも打ち合いの稽古をしていたけど、最近はシェイドばかりと打ち合いをしている。おかげで負け続きだ。でもシェイドの動きは勉強になるので大歓迎。


 今日最後の授業は魔術の修練の授業。教えてくれるのは、元宮廷魔導師のベルグア先生。長い白髪と長い白ひげが特徴の先生だ。


 目を輝かせて聴いているのはマルタとステラ。マルタは魔法好きなのでわかるけど、なぜかステラは魔法の授業になると一際目を輝かせる。


 今日の授業内容は座学ではなく実際に魔法を使う授業だ。


 と言っても魔法が使えるかの適正を見るだけみたいだけど。 


 魔法は誰でも使える訳ではないらしい。


 使えるかどうか判断するのに必要な物がベルグア先生が持つ水晶。


 魔法が使える人間がこの水晶に触れれば光るらしい。光る色によって使える属性魔法もわかるらしい。


 属性は火が赤、水が青、風が緑、土が茶色、聖が白、闇が黒。


 レベッカやダスマン、マルタは既に適正を見たらしく、レベッカは火属性の適正があり、ダスマンは風属性。マルタは火、水、風、土の四属性の適正があるらしい。普通はあっても一属性しか持っていないらしく、マルタの四属性は凄い事らしい。元宮廷魔導師のベルグア先生でも火属性と土属性の二つなのだから。


 今日適正を見るのは僕だけ。


 魔法が使えない場合もあるんだよね。緊張しながら水晶に手を触れると白く輝く水晶。


 「なんと!? マルタの四属性にも驚いたが、まさか聖属性の適正があるとは!!」


 なんでも聖属性と闇属性の適正を持つ人間は希少らしい。


 マルタが羨ましそうに僕を見てくる。


 まぁ、魔法が使えるとわかったので一安心していたら、抱っこしていたステラが水晶に触る。


 すると水晶は六色に光る。そう六色だ。


 つまり全ての属性の適正をステラは持っているということだ。


 「なっ!? 赤子が全属性使えるじゃと〜!?」 


 一番驚いていたのはベルグア先生。次にマルタが驚愕の目でステラを見る。


 僕も驚いたけど、ステラは普通の赤子と違うから納得もした。


 ステラはというと六色に光る水晶を嬉しそうに見つめている。


 ベルグア先生とマルタの興奮を抑えていたら授業の時間が終わった。


 授業が全て終わると大浴場に行って体をお湯で洗う。


 大浴場から出ると夕食の時間だ。


 体を動かしてお腹ペコペコなので沢山食べた。


 夕食を食べ終わると洗面所へ行き歯を磨いて自室へと戻る。


 ベッドに横になり、図書室で借りてきた本を読む。ステラは僕と本の間に寝て本を見つめている。


 まさか本当に読んでる訳ないよなと思いながら眠気が来るまで本を読む。


 これがフェブレン邸での僕の一日。



        ◆◆◆



 ふわぁ、眠い。ルートヴィヒに抱っこされて食堂へと向かい、マルタ達と一緒に食事を摂る。

 ここのコックの離乳食は美味い。生温くてあまり美味しくなかったオッパイとおさらば出来て嬉しい。何より美少年に朝食を食べさせてもらい幸せ。


 午前中の授業は貴族の作法、国語、数学の授業。


 どれも私が異世界チートをする為に必要な知識。貪欲に学ばせてもらう。


 昼食を食べ終えて、図書室でルートヴィヒと本を読む。これもチートになる為。本の知識も頂く。


 午後になるとヨルバウムの歴史の授業。私、前世でも日本史とか好きだったのよね。特に戦国時代と明治維新。


 歴史の授業が終われば剣術の修練の時間。


 一番張り切っているのは意外にも我が兄ルートヴィヒ。天使の様な容姿に似合わず木刀を振って全力スマイルをしている。


 打ち合いも最初の頃はマルタ、レベッカ、ダスマンとも打ち合っていたルートヴィヒだけど、今じゃ実力に差があり過ぎてルートヴィヒの相手はシェイドがしている。


 計算や読み書きで天才の片鱗を見せていたけど、まさか剣術の才能もあるとは恐るべしルートヴィヒ。


 剣術の修練が終わってお待ちかねの時間がやって来た。


 そう、魔法の時間だ。


 特に今日は魔法の適正を見るらしく、あわよくば私も適正を見ようと狙っている。  


 ルートヴィヒが水晶に触ると白色に光った。という事は珍しい聖属性魔法の適正があるということ。羨ましい。


 よし、私もと隙を突いて水晶に触れる。


 すると水晶が六色に光ったではありませんか!!


 ······勝ったな。


 これで私の魔法チートへの道は決まったようなもの。


 ぐふふっ、マルタが羨ましそうに私を見ている。優越感半端ない。


 今日はよく眠れそうだ。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る