第5話 巨乳アイドルを勧誘する・前
仕事柄、アイドルやらメイドさんやら女性声優やらにインタビュー取材する機会は多い。そのため、清潔感にはかなり気を配っているし、ランニングや筋トレで体型維持もしているし、髪の毛は美容室で切るようにしてる。
ありがたいことに親のお陰で身長も180と高めになっている。だから、初対面の女性に悪印象を与えることはないだろうと、自負もしている。
だが、心はオタクだ。コミュニケーションが得意なオタクなんてそうそういない。飽くまで仕事の範囲で取り繕うことはできるが、プライベートで女の子をご飯に誘うなんて、めったにあることではない。
しかもさっきまでアイドルだった女の子だ。アイドルの子を誘うのはご法度だから、ものすごくギリギリのライン。内心、変じゃないかとか、警察に通報されないか、とかビクビクしていたが、桜子さんはあっさりと頷いてくれた。
何を食べたいか、と桜子さんにリクエストを聞いたところ、肉を食べたいというので、焼き肉に連れていくことにした。
秋葉原は肉の街だ。なぜか肉料理の店がたくさん営業している。最近では、秋葉原のメイド喫茶を運営している会社も、何社か肉料理の店に手を出している。
この焼き肉屋も、同じビルの階下に入っているメイド喫茶の言わば「系列店」だ。
「この焼き肉屋さん始めてきました」
「俺も2回目だけど、前に来たときすごく美味しかったから…。あ、今日は俺から誘ったので俺が持つから」
さすがに男の矜持としてそこは主張しておきたい。
「それは悪いです…」
「じゃあ、続きを話してもらう代金っていうことで」
「え、でも…」
戸惑う桜子さん。俺としては美少女と飯食えるってだけでお金を出したいってもんだ。
「まぁまぁ、話し進まないから、ここは俺の顔を立てて奢らせて、ね」
「わかりました。今度何かで返させてくださいね」
桜子さんは、そう言ってようやく納得してくれた。
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「なるほど。つまり高井貞子の父親がテレビ局のお偉いさんで、そのコネでできてるユニット、なのか」
「ざっくり言うとそうなります」
「そこまで疎まれるならもともとオーディションなんかやらなきゃいいのに…」
愚痴るように思わず出てしまった俺の言葉に、桜子さんは何とも困ったような顔を浮かべた。
「オーディションはプロデューサーの方が独断で行ったみたいで、貞子さんの父親は終わってから知って、反対したみたいです」
「なるほどねぇ。その争いに巻き込まれた桜子さんは、何というか災難だよなぁ」
「あはは…」
桜子さんの乾いた笑い。検めて、周りの都合で振り回されまくった現状に、もう笑うしかないんだろうな。
「実はさ、俺も今朝、職場をクビになったばかりなんだよね」
「えええ!?ユーリさんもですか?」
「そそ。幸い、さっき次の仕事は見つかったんだけど」
「それは…何というかおめでとうございます」
失職して当日に就職っていうのもなんのこっちゃとは、思うだろうが事実は事実だ。
「で、桜子さん、アイドル辞めて、次何かお仕事決めているの?」
「特には…ない…あ…」
ない、と言いかけた桜子さんは言い直した。
「メイド喫茶で、働いてみようかなぁとか、ちょっと思ってみたり、してみたり?してます?」
それは、ちょうどいい。ふふ。俺がさっきサナさんから受けた仕事話に『渡りに船』じゃないか!
「実は知り合い…というか、紹介できそうなメイド喫茶があるんだけど、面接受けてみない?」
「どういうことですか?」
「実はね、ほらさっき仕事見つかったって話をしたじゃん?」
俺の話に脈絡を見いだせないのか、さらに困惑を深めたような表情をする桜子さん。俺はとっておきを話すように、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「は、はぁ?」
「それがね、実は、メイド喫茶からの依頼でこんな話なんだけど…」
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数刻前。
「アイドルとメイド喫茶のメイドさんって共通点が多いと思っています。ええ」
新たな仕事の依頼主であるサナさんは、俺に仕事の説明をする際そう切り出した。
「まぁ…それはそうでしょうね」
どちらも、お客さんに受けるキャラクター
を作り上げて、その個性を売りにするという点でメイドとアイドルが共通点が多い。コラボすることだって無数にある。特筆するような話でもない。
「実際に秋葉原でも『あっと驚き!メイドカフェ』とか『アーノルド魔法喫茶』とかは、店でオリジナルの曲を出したり、店員がアイドルとして活動していたり、などいくらでも前例はありますからね」
サナさんは説明するまでもなく、知っていることだろう。
「前例はありますが、強力な売り出しにはもう一押し欲しいところではあります」
メイドがアイドル活動をすることで、喫茶側での売り上げうまく貢献している例はそれなりにある。しかし喫茶店側が成功しても、活動しているアイドル側が成功した例は極端に少ない。アイドル側が成功すれば喫茶側もさらに利益を上げられる可能性はある。
「アイドル側で、成功した例もあるっちゃーありますよね」
「ああ、ザ・ライブステージの『エレキテル・アタッカーズ』とかは武道館でもライブしていますから、成功してると言えますね」
「ただ、ザ・ライブステージは、メイド喫茶の成功例とは言えないなぁ」
あそこは、初期にはメイド喫茶的ではあったが、その段階では、アイドル側が売れることはなかった。アイドル側の押し出しを重視したのだろう、後に店を完全にライブハウスとして運営できる場所に移転してから、アイドル側が成功を収めている。
「そうですよね。メイド喫茶として成功してもアイドル側を犠牲にしては中途半端、アイドルが成功してもメイド喫茶でなくなっては意味がないです」
「で、どうするつもりなんです?」
サナさんはそれを聞かれてニヤリとした。
「もちろん、いいとこ取りのハイブリッド案です。それだけじゃないですけどね」
:::::::::以下お知らせ
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※ここらへんの理論もフィクションなんで、リアルな秋葉原とは別物と考えてください。店名などもすべてフィクションです。
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