お前はもうクビだと言われたライター、同じ日にクビになったアイドルを拾ってのしあがる

そこらへんのおじさん

1部:巨乳アイドル、ライブ始めます

クビになった2人の邂逅

第1話 クビになった2人

ステージを照らすきらめくライト。観衆の熱量はいまでも爆発するのではないか、というくらい高まっていた。


ステージの上の少女たちが歌い、踊れば、ただでさえ高い熱量が、活火山のように吹き出していく。


「次は最後の曲…「君との出会いはボルケーノ」です!ちゃーーんと最後までついてきてねーーーー!」

「「「うおおおおおおおおおお!」」」


ステージの少女たちの呼び掛けに呼応する地響きのような、もはや意味すらなさない雄叫び。観衆の中には涙まで流しているものすらいる。


この熱狂的

この狂信的

この圧倒的


普通に生きていたら味わえない異空間の場を瞬時に作り出す。


これがアイドル。

アイドルの力なのだ。


::::::::::


「編集長、この赤字修正は、いくらなんでもおかしいでしょう!?」


目の前の椅子に偉そうにふんぞり返っている豚みたいにふくれあがった腹を見せてる男。役職としては編集長という立場にいる、言わば上司に、俺はそう食って掛かった。


「どう考えても、この新興アイドルユニット『煌めき☆とらいあんぐる』を引っ張っているのは桜井桜子です」


「……それがなんだと言うのだ?」


「分量変えろ、というのならまだわかります。しかし、記事から彼女の名前を完全になくせはいくら何でもおかしいでしょ!」


この編集長はアイドルの「あ」の字も知らない。


その癖、俺の書いた記事から、あるアイドルの名前を消せ!などという、ありえない赤字修正を入れてきたのだ。まぁ……こいつが、ありえない赤字を入れるのは、いまに始まったことではないが。


「はん!吠えるな。雇われのライターごときが口を出す次元の話じゃないんだ!これは高度な、政治的な話なのだ」


睨みながら返答してきた豚中年は、アイドル情報専門webサイト「アイドルナウ」編集長の阿武あぶ羅観らみという。


この豚、偉そうに編集長などという立場だが、その実、ライター上がりでも、企画上がりでもねぇ。


しかも、このサイトに即したアイドルの知識すら欠片もないという、お荷物だ。そのくせだけで、いきなり編集長に抜擢されたという何とも言えないである。


「なにが口を出す次元じゃない、ですか。また上からの忖度ですか!だからアクセス数が落ちて、売り上げも下がってるんでしょ!」


それでも成果があるなら、文句は言わない。


だが、こいつが赴任してくるまでは右肩上がりだったアクセス数は、みるみる下がっているのだ。


赴任してわずか3か月でアクセス数半分って妨害工作員だとすれば優秀だけど、そうでないならとんでもない無能だ。


「うるさいうるさいうるさいうるさい!黙れ!」


「ネットじゃあ、全面、単なる広告記事だとか、叩かれまくってるの知ってるでしょう?アクセス数確保できなければ、忖度も糞もないでしょう!?」


ゴミみたいな経歴のこいつができることは、前職のつながりで持ってきたとやらへの忖度だけだ。


その上とやらは、うちのサイトに広告を出してくれてる関係らしい。が、何故かその広告をディスカウントで受けてくるのだ。バカ過ぎる。なんでディスカウントで受けた広告先に忖度してるんだよ。


お陰でほかの広告先もディスカウントしろって言ってくるし、記事にも口だしてくるようになってあっという間に雁字搦めになっていったのだ。


記事はドンドンつまらなくなって、アクセス数が落ちる。だからまたディスカウント。忖度。完全に負のスパイラルだ。


「黙れ!期間契約の元フリーライターごときが口を出すな!次は更新しないぞ!」


「どうぞどうぞ。ちょうど都合のいいことに契約更新は今月いっぱいでしたよね?」


しかも今は月末。更新を切るには頃合いだ。俺の憎まれ口に豚野郎は、さらに強く睨んでくる。


「ああ!いますぐ出ていけ!この原稿とともに出ていけ!そして、のたれ死ね!!」


しっしっ、と犬を追い払うかのように右手の平を払う仕草をする豚野郎。ほんとこいつバカすぎるわ。


前の編集長に請われて、一緒に立ち上げたサイトだったが、まぁ仕方ない。俺は自分の机にある愛用のカメラとノートパソコンをカバンに詰めこむ。


さわらぬ神に祟りなしと、敢えて目をそらすほかのライターたち…


諦め気味に小さなため息をつくと、編集部のあるフロアからさっさと出ることにした。


::::::::::


同日、同時刻。


アイドルユニット「煌めき☆とらいあんぐる」のメンバー桜井さくらい桜子さくらこは、珍しくあった平日午前中のライブを終えた楽屋内で、自分のパフォーマンスの反省をしていた。


「うーん。こうかな?いや、このときはもっと笑顔の方がファンの人は喜ぶかな?」


控え室にある鏡の前で曲途中のポーズを確認しながら、桜子は、あーでもない、こうでもないと自問自答して悩んでいる。


歳は二十前、背は気持ち低め、少し釣り気味の目と八重歯で何とも小生意気そうな容姿は「小悪魔」という表現が適切だろう。何よりスイカを2つ取っつけたような胸部は、健康的な男性ならまず1度見たら忘れられない。


彼女は、自分がアイドルだからこそ、ファンには常に最高の状態を見せたい、と強く想う、ある意味生粋のである。


そのため今日も今日とて、先ほどのライブを振り返りながら、自分がファンからどう見えるか、ファンが何をすると喜ぶか、を研究している。


そのためだろう、グループでは間違いなく彼女が一番人気である。しかし、だからと言って彼女が順境にあるとは言い難い。


「あー桜子がぁまぁたくだらないことしてるゥ」

「ほんとほんといやだわ!」

「ケッ!自意識過剰で気持ち悪りぃ」


煌めき☆は、名前に反して4人グループだ。もともと3人で初めたのだが、どうにも売れなくて、途中からテコ入れとして、オーディションを行い桜子を加入させた。そうしたお陰か、最近徐々に人気が出始めたのだ。


事実、いまのこのユニットのファンの半分以上…いや、ほぼ全員が桜子のファンなのだ。


「ケッ!オタクに媚びててまじ気持ち悪いィ!目障りだわ」


悪態をついたのは、このユニットのリーダー格、高井貞子。彼女は、背が高く、スタイルは抜群。気の強そうな顔はなかなかの美人と言える。だが、客=オタクをバカにしきっていて、それがステージパフォーマンスにも現れている。


そして「ケッ!」とか「気持ち悪いィ!」など、アイドルとは思えないほど口が悪く、ステージでも隠そうとしないので、ファンがまったく付かない。


「ファンの人がいやなら、アイドルなんてやらなきゃいいのに…」


桜子は、貞子の方を向きもせずに、冷えきった声でつぶやく。しかし、耳敏い貞子は桜子のつぶやきを拾ったようだ。


「アァ!?このブスが何か言ったか?」

「ほんとほんと!バカなこと言ってるんじゃないわよ!」

「桜子がぁふざけたこと言ってるぅ」


貞子に続いて、なにかを言ってる残り2人は、ありていに言えば貞子のだ。貞子の父は、テレビ局のお偉いさんである。


そのため、アイドル適正を明らかに持ち合わせていない彼女たちでも、スタッフをばっちり揃えて、友達3人でアイドルユニットを組むことが出来たというわけだ。


彼女たちはアイドルとして、華やかな芸能界で、ちやほやされることしか頭にない。世の中そんなに甘くはない。良いスタッフを揃えても、肝心な本人にやる気がなければ、売れるのはとうていムリな話なのだ。


「まっ、いっかぁ」


貞子がわざとらしく声を張った。先ほどまでずっと不快そうな顔が唐突にニヤリとなった。あまりにも不安定すぎふ感情の起伏がかなり不気味だが、まるで獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべてその不気味さはさらに加速する。


「どうせ桜子はだし!」


「は?」


今日までとは何の話なのか? 桜子が浮かんだ疑問を聞き返す前に、取り巻き2人も続けた。


「ほんとほんと!今日までだもんねぇ!」

「桜子はぁ今日までぇ!」


要領を得ないことを、繰り返す三人に桜子は戸惑う。


「え?それはどういうことですか?」


「なんで、わからねぇの?」


バカだなぁと言う貞子に、桜子は、内心で「わかるわけないでしょ!」と悪態をつく。しかし、口に出してもムダだと悟り、表向きは黙って続きを聞くことにした。


黙った桜井を見て、「言い負かした」と勘違いして気分が良くなった貞子がようやく結論を話す。


「バカな女…お前は今日でクビってことだよ!明日から来なくていいってことだ!」



202x年の夏のある日、1人の人気ライターと1人の人気出そうなアイドルが、奇しくもクビになった。


この2人が、クビをきっかけに、アイドル業界をハチャメチャにしていくとは、このとき誰の頭にも浮かばなかった。







:::::::::以下お知らせ


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