第2話 花と会話

「ラナ、カモメ君と仲良いの?」

体育の時間、男子はバスケ、女子はバレーボールで分かれて体育館でメンバーチェンジを待っている時、小学校から仲の良い田中花から聞かれ、ラナはビクッとした。



ありがたい事に、保緑(ほりょく)中学校には、カースト制度もいじめもなく、不登校の子も保健室登校をしている。



クラスメートも学年も、スポーツが出来る子、勉強が出来る子、部活に力を入れている子、帰宅部の子、のんびりほどほどに中学生活を送っている子とふわっとグループが別れ、みんなゆるくそのグループを行き来している。



いじめがないのは、この中学校には変わり者の先生と文武両道の3年生が目を光らせているのもあるが。



目の前で、めんどくさくそうにバレーボールをするメンバーを交互に見ながら、花がちらっとラナを見た。



「この前、ラナからカモメ君に話しかけてたでしょ?」

女子、恐るべし。そして、めんどくさい。ラナは小学生の頃より大人っぽくなった花を見た。



隣にいると、少し甘い香水の香りがする。



「あ、あ、ちょっと勉強の事を聞いてたの。頭良って噂だったから」

とりつくように、ラナが言うと花はふーんと意味ありげにうなずく。



「私、田中じゃない?」

ラナは、花が言う当たり前の事に首をかしげた。田中が名字なのは、学年に5人はいる。



「カモメ君、私の従姉妹なのよ。誰にも言わないでね?カモメ君、学年はもちろん、親戚の中でも変わってるって有名人だから」


「えっ?」

ラナが思わず、裏返った声をあげた。保緑中学校は、4つの小学校が分かれて生徒が集まっているから、1年生の時は、ほとんどの顔をみんなが知らないくらいだ。



花は、少し意味ありげにニヤリと笑うと、誰にも言わないでよ?と大切な打ち明け話をするように笑う。



「でもさ、カモメ君と毎年お正月に会うけど、皆が言うほど変わってないんだよね。真実を言ってくるだけで」

花が、ポツリと呟いた。



それなっ、思わずラナは口から出そうになったが相づちだけした。



「でもラナ、クラスの女子の目を気にして話した方がいいよ、カモメ君が何を考えているか分からないって苦手な女子、多いから。私に言わせたら普段は、何も考えてなさそうだけど」

花の優しいアドバイスと2人だけの秘密が嬉しくて、ラナはまたうなずいた。



「メンバーチェンジだ」

いつの間にか、笛が鳴り、ラナと花のグループの番になっている。



花の甘い香水の後を追いかけるようにラナは、歩きだす。



隣でバスケをしている男子の中に、カモメ君がいた。意外に文武両道なため、チームに毎回入れられて、淡々とボールを投げている。



「ラナ、行くよ!」

花が呼ぶ。


「今、行く」

ラナの目は、カモメ君からつまらそうにバレーボールの試合を始めるチームに向いたが、ラナの心は少し踊っていた。






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