母からメールが届きました


「頼むから『あっち』でひと花咲かせてくれませんか? あなたに直接会いに行けなくなるのは寂しいけど、このまま一生、引きこもってしまうよりは耳の長いお嫁さんに囲まれる姿をSNSで見せてください」


 今朝、母親からショートメールが来て、俺はいよいよヤバイと思い始めた。自分が腹を痛めて生んだ倅に平気で「逝け」なんて言うか?

 こんな狂った世界は早晩滅びちまう。こっちから願い下げだ。

 でも、命は惜しい。死ぬのは怖い。トラックに轢かれるとは言っても瞬間的な苦痛は耐えがたいものだろう。

 俺が湿った布団の中で(ちなみに半年以上洗ってない)悶々と逡巡していると家賃一万二千円のアパートが揺れた。


 やばい、地震だ。

いや、某ネット通販会社の専用トラックだ。きっと赤外線靴下乾燥機Nextパックとか一人用タコ焼き器Nextパックとか積んでいるだろう。


巣ごもり消費の余熱に乗じた経済対策の一つだ。


パック詰めされた商品を定額でまとめ買いできる。中身は開けてみてのお楽しみで選べない。しかし、動画投稿サイトで「開封の儀」を見るにつけ悪くはない買い物だ。

そういえば隣部屋の奴が電気鋸Jソンスペシャルとやらを引いてドヤってたなあ。社会が平常に戻ったころ、ワシントンまで桜の木を伐採しに行くツアーが企画される始末だ。



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