第37話 残される「机」

図書室の掃除が終わり教室に戻ると

運ばれていない机があった。


ポツンと残された机は

「いじめ」の象徴だった。


兆候はあった。


ある女子が、彼のことを

「気持ち悪い」

と言っていたのを聞いたことがある。

数人の女子グループでの会話だった。


それが、いつの間にか波紋のように

クラス中に広まっていた……


私には彼を嫌う理由がない。

でも、

「こんな胸糞悪い『いじめ』をやめろ!」

という度胸も無かった。


だから

彼の机を率先して運ぶことにした。


残されたままの彼の机を

何も言わず、黙々と運んだ。


それが、私の「いじめをやめろ!」という意志表示だった。


時に、私より早く教室に戻った彼が

残された自分の机を運んでいるのを見た。


どんな顔をしていたのか、覚えていない。

辛かったと思う。

悲しかったと思う。


どれ位、その状態が続いたのか記憶にないけれど

ある日、彼の机を運ぶ男子生徒がいた。


学級委員長だった。

ただ、黙って机を運んでいた。


私は、それを見ていた。


周りの生徒も、それを見ていた。


それをきっかけに

彼の机が残されることがなくなった。


クラスに平和が戻る。


でも、机を残されていた彼の心には

大きな傷が残ったかもしれない。


私の頭に残る

色褪せない記憶の一つである。

 








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