【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~
八十浦カイリ
プロローグ
プロローグ 1 ちょっと不思議な夢を見た
ちょっと不思議な夢を見た。
わたしは燃え盛る屋敷のような建物の中にいた。
そしてそのわたしの方に向かって、手を伸ばす誰かがいる。
自分の名前を呼んでいるようだけど、上手く聞き取れない。声に向かって自分も手を伸ばしてみようとするけれど、身体が全く動かなくて、指が僅かに動くだけだ。
きっと火事に巻き込まれて、夢の中のわたしはもうすぐ死んでしまう。そう確信していたけど、どこか寂しいような気持ちになる。
もしかしたら、手を伸ばす誰かを置いていくのがすごく悲しいのかもしれない。
そして、わたしを呼ぶその人の姿が一瞬だけ見えた。
―――その人は、とても綺麗な赤い瞳でわたしの姿を見ていたのだ。
気がつくと、そこは見知った部屋だった。
朝日が差し込む、背の高い本棚に囲まれた部屋。……わたしの部屋だ。
目覚まし時計を見ると、その時刻は午前の七時を差していた。いつも起きる時間より30分ほど早い時間。
そういえば昨日は何をしていたっけ?寝る前まで本を読んでいたのは覚えているけど、その後の記憶がちょっとおぼろげ。きっとまだ寝ぼけているんだろう。
自室から階段を降りて、リビングへと向かう。リビングでは既に妹の葉月ちゃんがテレビを見ていた。
「あれ?芽衣ちゃん早いね、何?早起きにでも目覚めたのー?」
「それが…ちょっと早く目が覚めちゃったんだ。」
「いつも目覚ましでもなかなか起きない芽衣ちゃんが早起き…!?どうしたの…何か変なものでも食べた!?」
葉月ちゃんってばなかなかひどいことを言うなぁ。
「変なものは食べてないけど…そうだなぁ。ちょっと変わった夢は見たかな?」
葉月ちゃんに夢のことを話すと、葉月ちゃんは少し首を傾げた後
「確かに変わった夢だけど…というか芽衣ちゃんそれすごい悪夢だと思うけど、よくそれちょっと変わった夢、で済ませたね?」
言われてみて気付く。確かに火事に巻き込まれて死んでしまう夢っていうのは立派に悪夢だ。
けれど、見たあと自然とそこまで気分は悪くならなかったし、何より自分を見つめるその赤くてきれいな瞳が、火事の記憶以上に目に焼き付いて離れないのだ。
「芽衣ちゃんいっつもぼーっとしてるからさぁ。そのうち変なことに巻き込まれないか心配なんだよね、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だよ、葉月ちゃんが心配するようなことはないって」
ほんとにー?と意地悪く笑った後、
「朝ごはん出来てるから、ちゃんと食べてから学校行きなね。いつも朝ギリギリで食べてないけど、朝ごはんは食べなきゃだめだよ?」
と、よく焼けたトーストとコップに注がれた牛乳を指差す。
葉月ちゃんとわたしは、別に二人暮らしというわけではない。
けれど、お父さんは単身赴任中、お母さんは朝早くから仕事に出掛けていて、今家にいるのは二人だけだ。
咲坂家の日常はいつもこうやって始まる。お父さんやお母さんと話をする回数が少ないのは少し寂しいけれど、それでもこうやって日常を送れることには、いつも幸せを感じている。
何より、この世にはわたしの好きなものが溢れている。
小説、漫画……それに限らずだけど、わたしはあらゆる物語が好きなのだ。
物心ついてすぐの頃から、そういったものに触れ続けていたらしくて、色んな世界が広がっている"物語"を、いつしか愛してやまなくなっていた。
朝ごはんを食べ終わって、学校に行く準備をしている時も、やっぱり夢の中で見た赤い瞳が忘れられないままだった。
「一体、誰だったんだろう…?」
そんな疑問を口にするけど、勿論解決することはない。
わたしの記憶にそんな目をした人物はいないけれど、それでもその視線に少し懐かしさのようなものを覚えていたのも、不思議なことのひとつだった。
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