6分後の君へ
えっ、じゃあ、ずっとここにいればいいって。
仮想の対話相手よ。俺は我慢できないのだ。
苦痛はないとさっき言ったが、厳密には嘘だ。
確かに俺は病気にかからないし怪我もしない。嫌なことがあっても極端に短い寿命をやり過ごせばいい。
死は、医学的な意味でいう死はあるのかないのかわからない。成人のまま生まれて老化せずに死ぬ。
換言すれば五分ごとに俺は生まれ変わる。
屁理屈をこねるだけの知識は出生の瞬間に刷り込まれている。
だが、それに何の意味があるというのだ。それゆえに俺は自身の存在理由や境遇に関する考察を始めた。
しかし、喉まで出かかった言葉がスーッと神隠しのようにどこかへ行っちまう。
これじゃ生き地獄だ。思考を奪われたまま、意味もなく生かされていることに耐えられない。
一刻も早くここから出たい。高みの見物している奴らを引きずりおろしてぶん殴りたい。
俺には脱獄に必要な道具も材料もない。仮にあったとしても十分で造れるはずがない。
出来ることは悪態をつくぐらいだ。
だから、仮想の君よ。俺の言葉を紡いでほしい。
転生を何度か続けるうちに俺は閃いたのだ。
「俺自身」の存在は書き換えられても、「俺」を収容している「この場所」は更新されない。
必要がないからだ。
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