エピローグ

虚空や写真盾に思いを馳せるより、もっともっと遠い場所がある。

抜けるような青い空、水平線に群れ集う海鳥。連続性を補助する表象は愛情の概念を補強してくれる。しかし、目に見える分断はそのような強がりを一撃で破壊する。

例えば、面会室の強化プラスチック。

敦彦は涙声で担当弁護士に告げた。娘達に一目会いたい、と。


あるいはリモートの逢瀬を阻む厚いゴリラガラス。元気な姿が見て取れるからこそ、隔靴搔痒が腫れた古傷を苛むのだ。


「新型コロナウイルスの関係でいろいろありましてね。動画を預かってます」

弁護士はスマートフォンを起動した。



あの夏は特別に暑かった。けど、見えない恐怖に怯えて猫の額のような窓越しに伺う夏より熱い季節はない。

硬質ガラスの内側で君はいつも南風に吹かれていた。

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