ロボットの本音

 するとロボットは本音を漏らした。

「これ総需要確保のためです。介護ロボットや消耗品の製造業が経済を潤しています」


 花子がまだ何か言いたいようだったが、博士が割って入る。

「安楽死させられるよりはマシじゃないか」

 しかし、花子は後部座席から身を乗り出して、助手席のロボットに迫った。


「ロボットさん。わたしたちを、いいえ、わたしをここに呼び出したのは理由があるのでしょう?」

 彼女は仁王立ちし、セーラー服のスカートが風で乱れる。するとロボットの態度が微妙に変化した。LEDの瞳が点滅し、赤いレーザーが胸元を這う。

「おい、君」

ジゴワットの制止を振り切る。

「わかっているのよ! あなたはこういう状況をどうにかしたくて、わたしを呼び寄せたのでしょう?」


 花子はロボットを押し倒すと、腹部のプラスチックカバーを叩き割った。配線に試験管が埋もれている。

「何だと?!」

ジゴワットはロボの真意に気づいたが、花子が先手を打った。

「わたしにはその覚悟があるわ!」

 彼女は顔を赤らめて、セーラー服のリボンに手をかけた。

「いかん、花子君、いかん!」

 博士がロボットを蹴り倒し、助手にのしかかる。

「ダメっ、博士! 私はこの時代に残ります」

「気でも触れたか?」

博士はカマドウマンの主電源を切った。花子を座席から引きずりだし、絡み合ったまま草原を転がる。天地が激しく交代するなかで、博士は気づいた。西の空に積乱雲が育っており、微かに雷鳴が聞こえる。一転俄かにかき曇り、ぽつぽつと雨だれが地面を湿らす。すぐさまざあっとバケツを転覆したような本降りになる。

「博士ぇ…あたし、この時代にぃ」

ぐっしょりと濡れた前髪を垂らして、花子がしがみ付く。

「いかん。憑かれてはいかんぞ。思う壺だ。それに奴はロボットじゃない!」

博士はどうにか片腕を振り払い、内懐からリモコン装置を取り出した。

「流石、ジゴワット博士ですね」

ロボットのパトライトが唇の様に割れ、ドロッとした粘液と二枚舌が飛び出した。そいつは棘だらけの節足を胴から生やし、カマドウマンを抱きかかえている。あろうことかメリメリと月面チタニウム合金製の超硬質ボディにめり込む。

「よかろう!助手はくれてやる。未来人を釣り餌にして捻じれた世界線に誘い込むほど進歩したお前らの事だ。目の上のたん瘤は望み通り消えてやろう」

むき出しの銀色のタキオンエンジンが白熱する。節足動物の節々に単眼が開いた。焦りの色が見える。

「待て、ジゴワッ…」

 声にならない声にピーっという電子音が重なった。

ドカンと稲光が降臨し、そして世界が暗転した。




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