第12話「脱走兵」

丘を越え、森を越え、

ひたすら越えていく

辿り着いた場所は草原だった


乗っていた戦車の背後には、

タイヤの跡がくっきりと残っている


昨日まで戦っていたとは思えないくらい

戦闘服は汚れていなかった


あの戦いで友人たちも、

散っていった


少年兵に志願して出撃はしたものの、

結局怖くなって、戦線離脱

脱走兵となった僕に戻る場所などないから

そう想い返した


頭のハッチを開け外に出た時、

鳥が何羽か飛び去った

けたたましい声で鳴くんだなと思っていると、

急に口元がさびしくなる


お気に入りの銘柄をポッケから取り出し、

独りふかしていた


草原の風

南から吹き抜ける風は、

さびしさを強くするみたいだ


まるで海に来たみたい

感心していると

辺りは夕焼けに染まっていた


何も考えない時間が過ぎる


ふと、思った

もう戦場には戻りたくないなぁ、と


びゅうびゅう吹く風に

さわさわさわと響かせる草原


僕は、

―― いつか戦争は終わるんだよな ――

と、

ぼそりとつぶやいて、

赤く染まる太陽をじっと眺めていた

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