総合フラクタル型自我劣化および失調症候群(UFD)
「施設の認知症予防ってどうりゃいいの」
私は翌日の認定調査を前に頭を抱えた。眠れぬ夜を一夜漬けで過ごす。
何たる皮肉だろう。冷眠機の床が恋しい。仕方なく目線でページを繰る。
◇ ◇ ◇
生体記憶および人格を機械化するにあたり様々な手段が試された。まずデカルト式として人間の大脳をあらゆる角度からつぶさに分析する。次に遺伝子レベルから脳のミニモデルを構築し、研究成果を積み上げて最終的に人造大脳を完成させる。
だがこのやり方はすぐに破綻した。意識はつかみどころのない存在で、ここからここまでが価値観を司るという風に分解できない。
そこでフッサール式と言って「形から入る」アプローチがなされた。その頃、AIの凄まじい進化は人間の理解を超える
「確かに俺の技だが…」巨匠は首を捻るばかりだ。いっそAIに大脳の構築を任せてしまえ、と一気に意識のデジタル化が進んだ。
一方、自我の器となるハードウェアの開発はさっぱりだった。つかみどころのない意識の塊は文字通りクラウド上に符号として在る。それを収容する機械の臓器がない。ここでもAIが独創を発揮した。金属で脳を作ればいい。具体的にはフラクタルを連ねる。一本の樹は同じ構造の繰り返しで成り立っている。木の葉も幹も「枝分かれ」が原則だ。どんなに複雑な構造もパターン化できる。AIは大脳から最大公約数となるパターンを見つけ、金属を3Dフラクタル加工した。こうして、荒瀬真澄は死してなお軌道特養ほほえみに宿っている。
ここまで読んで私は気が重くなった。荒瀬は施設と運命を共にする。大昔の船長ではあるまいし、これは合法的な殺人ではないのか。
ホログラムに赤い付箋が現われた。UFD―統合フラクタル失調症のページだ。金属製の脳は経年劣化する。ふと、悪魔的な陰謀が浮かんだ。やろうと思えば相手は金属だ。加工はできなくもない。
私は付箋を貼った人物に心当たりがあった。高畑だ。
これは「やれ」という暗示か。
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