ありがたく思えよ。俺も勇者だから
「ありがたく思えよ。俺も勇者だからな。本当なら問答無用でぶっ殺す予定だった。だが、アンタを倒したら俺の存在理由がなくなっちまう」
猶予を与えられた魔王は頭をフル回転させて交換条件を探った。
取引材料は多くない。特に魔王と同程度に「善悪」を制御できる相手を満足させるには。
彼は考え抜いた末に苦渋の決断を下した。
「わ、わかった。お前と世界を折半しよう」
すると、勇者はあっさりと矛先を収めた。
「そうこなくっちゃな。とりあえずアンタは地獄とか死の世界とか、そういう空間を支配して貰おうか」
提案を魔王はすんなりと受け入れた。
「よかろう。争いが絶えぬ世界にようやく善悪の境界が確定するのだ」
「ああ、少なくとも天地がひっくり返るような諍いはなくなるな。人間は人間同士、闇の衆は闇の衆同士で争えばいい」
創造主が明確な線引きをせぬまま放りだした世界にようやく一つの安定がもたらされた。
魔王と勇者は固く手を握りしめた。
と、その瞬間。
「ぐわあっ、ま、魔王?!」
勇者の悲鳴が地下迷宮に響き渡った。
彼の姿はかき消すように水晶玉に吸い込まれた。
「フゥーハハハ! 俺が約束を守ると思ったか?! この魔王の俺様が!! フゥーハハハ!!!」
そして俺のターンは五分間きっかりで終わった。
◇ ◇ ◇ ◇
えーと何だっけ。ちょっと前に何かあったような気がする。
思い出そうとしても記憶にとどめられず、覚えようとして忘れちまった。
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