第7話 あれから15日後 マリィ視点(5)

「テオ様、お姉様。お二人は、どちらへ行かれるんですの?」


 思い当たる節がなく、2人の目を交互に見つめる。

 スロス家で食事をする時はわたくしも誘われるので、違う。確かテオ様は毎週金曜日は今日の夜はお家の仕事があって、これから外出するはずはない。

 なにをするつもりですの……?


「ああそうか。部屋に籠っていた影響か何かで、まだ伝わっていないんだね。俺達の行き先は、俺の家。今日から結婚式の日まで、ウチで過ごす事になったんだよ」

「へぇ、そうだったんですね。結婚後に同棲の予定が早まって、今日から始まるんですのね。………………………………………………………………………………………………………………………………………………。は?」



 う ち で す ご す ?



「俺達は卒業式の翌日に、結婚する予定だっただろう? しかしながら式の準備でトラブルが発生してしまい、このままではズレ込んでしまいそうなんだよ」

「予定日に間に合わせるには、テオ様と私が一緒に居た方が都合がいいの。だから今夜から、テオ様のお家でお世話になるんだよ」

「突然の報告になって、申し訳ない。けれど、安心して欲しい。学院への移動などジュリエットが行動する際には俺が傍にいるし、家でも万全の態勢で見守る。お姉さんが危険な目に遭ったり、悲しんだりする事はないと約束するよ」

「……………………………………………」


 いえ。あのですね。それね。わたくしにとっては、だめなんですの。

 万全の態勢で見守られたら、写真を捏造できませんの。お姉様がコッソリ家を抜け出せる状況がないと、成立しませんの。

 結婚したらお姉様はスロス家で過ごすようになって、チャンスは永遠になくなってしまいますの。


「て、テオ様。お姉様。せめて1週間後、いえ。3日後からには、なりませんか? なりま、せんか?」

「すまない、それは無理だ。俺達の結婚式はジュリエットの君達の誕生日に設定されていて、今のジュリエットの願いは、有難い事に『俺と結婚をする』。ジュリエットの日を最高の日に、一生涯忘れられない素晴らしい日にしたから、是が非でも間に合わせなければならないんだよ」

「ごめんね、マリィ。でもちゃんと、時々は顔を出すよ? 一緒にお茶とかをする時間はあるから、寂しくはないと思うよ?」


 はい、そうですね。寂しくはありませんね。

 わーい。わーい。あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。


「「? マリィの目に、生気がないような……? 急にどうしたんだ(どうしたの)?」」

「なんでもありませんわぁ。そういえばわたくし、途中にしていた用事がありましたのぉ。戻って続きに取り掛かりますわねぇ。テオ様、お姉様、よい時間をお過ごしくださいませぇ」


 呆然とカーテシーを行い、油の切れたブリキの人形みたいにギシギシと回れ右。右手右足、左手と左足を同時に出してギシギシと歩いて、


「ぎあ!?」


 途中で転んで、起き上がって、ギリギリとトコトコ。再び右手右足、左手左足を繰り返して部屋に辿り着き、扉を閉めるとベッドに倒れ込む。



 テオ様とお姉様のせいで、作戦その3が失敗に終わった。

 あんなにも時間をかけて準備したのに、全部が無駄になった。

 ………………。……………………。


 …………もう…………。…………わたくしの心は、折れました……………。

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