第7話 あれから15日後 マリィ視点(1)

「はぁ、はぁ、はぁ……。これで、43個目の、修正が、おわり……。おわった……。もう、見破られる、心配は……。ありません、わよね……?」


 祝日の、午後2時過ぎ。一日中鏡を凝視していたわたくしは、ふらふらしながら改めて鏡を覗き込む。

 頭のてっぺんからつま先まで……。毎日毎日客観的にチェックをして、43個の問題点を取り除いた……。


『お姉様の所持する服とわたくしのものでは、一部のほつれ具合が極僅かに異なっていた』

『爪の光沢感が、僅かに違っていた』

『指の爪の形が数ミリ違っていた』

『わたくしの方がお姉様より、背筋が数度曲がっていた』


 などなど。改めて徹底的に見比べ、徹底的に調節してきたんですもの。

 これ以上は……。ありません、わよね……?


「……………………ええ。ええ……。間違い、ありませんわ……。指摘されかねない点は、どこにもありませんわ」


 大丈夫。もう、大丈夫ですわ。

 360度グルっと回ってみても、気になるところはない。これなら――


『ふふふっ。そうです……っ。テオ様に、お見せしたいものがあるんです』


 ――窓の外から、お姉様の笑い声が聞こえてきた。

 ? ??? どうしてお姉様の声が、庭から――ああ、そうでしたわ……。今日はテオ様がいらっしゃっていて、お庭でアフタヌーンティーを楽しんでいるんでしたわね……。

 2人がわたくしを誘っているとか今夜どうこうと、お母様が言いに来たのを忘れていましたわ……。


「はぁ、呑気ですわね……。見せたいものって……。何を見せようとしているんですの……?」


『ソレは、アルバムだね。どんな写真を見せてもらえるのかな?』

『一昨年の、ハロウィンのお写真なんですよ。マリィや皆さんと、仮装をしたんです』


 そういえば、そんな事もありましたわね……。

 お茶会をしているメンバー8人で集まって、ええと。全員でカボチャをかぶってマントを羽織り、ジャックオランタンになりましたわね。

 そうした理由は、『同じ姿をして結束力を更に高めましょう!』。侯爵家令嬢ティアナ様の提案なので文句は言いませんでしたが、『そこを選びますの?』というセンスでしたわね……。


『同じ格好をした人が8人いて、カーテンから顔だけを出してこちらを見ている。不思議な画(え)だね』

『ユニーク、ですよね。……では、ここでクイズです……っ。どのジャックオランタンが、私でしょうか……っ』


 正解の場合はご褒美として、私が作ったクッキーを差し上げます。はずれの場合は罰として、私が作ったクッキーを受け取っていただきます……っ。

 お姉様はモジモジとそんなことを言い出して、わたくしはおもわず頭を掻きむしった。


((!!!!!!!!!!!!! なんですのっ、このアホな問題は……!!))


 どっちに転んでも、手作りクッキーをプレゼント。体中が痒くなりますわっ!

 こっちはこんなにも疲れているのに……っ。無駄に甘い雰囲気を出していて、ムカつきますわ……!


『テオ様。8人のうち、どれが私だと思いますか……っ?』


 どれもなにも……。顔はカボチャで覆われているし、カーテンから顔だけを出しているから体型も分からない。

 こんなの、運ですわ。さしものテオ様でも、こればかりはどうしようもありませ



『右から2番目がジュリエットだね』



 ………………………………。ぇ?

 即答して、正解した…………?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る