誰がために我、癒す
耐えがたい夏の暑さは、さすがに癒してのリチャードでも太刀打ちできない。そんな時は遠慮なく妻の実家にお邪魔するのだ。
「おじいちゃん!」
三等身の女の子が長い髪と耳をちょこちょこ揺らして走り回る。
「こぉら、マリアーノ」
台所から身重の妻が愛の鞭を放った。ターコイズブルーの奔流は散らかった遊具やテーブルの足を迂回して、森の小動物を思わせる人物に絡みつく。
「ひどぅい! おとーーーさーーーん」
少女はギャン泣きすると、リチャードが飛んできた。
「ほぉら、痛くない痛くない」
マリアーノを抱き上げると、無傷の手足を右手で優しくさすった。もちろん、何も起こらない。
が、娘は気をよくしたらしく、父親にべったりと密着する。
これは重症の甘えん坊である。
「あなた! マリアーノに優しくしすぎないで!!」
鬼嫁の罵声がグサグサと心に突き刺さる。
「君も少しは父親の威厳を示したらどうだね」
舅もなかなか手厳しい。
科学と魔法が共存するトホホギス・テクセル連邦共和国においても、家庭問題を癒す手はなかなかみつかりそうにない。
リチャードは聞こえるようにボヤいた。
「グレイバス監獄の時みたいにゃ行きませんよお義父さん。あの時、僕は確かに癒してのリチャードと呼ばれましたよ。そこで一つの賭けに出たんです。癒しは最大の攻撃であり防御であるとね」
「君は見事、勝ったじゃないか。人生何事も勝負勝負だ。マリアーノとエテュセを癒してやりなさい」
父、なかなか手厳しい。
癒しては口をへの字に曲げた。「じゃあ、僕は誰が…」
小さな手が、そっと彼に添えられた。
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